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「サーシャ」
レナードは囁きました。
「あの人の事はもう忘れた方が良い」
「そんな風に言わないで」
悲しみで胸の辺りが痛くなりました。
レナードはフィオナに対して怒りを感じているのか、彼女に関する話題を拒もうとしてきます。
彼がこういう態度を取る度に、無表情に睨み合う二人の姿を思い出して心が沈んでいきました。
「私はこれまで、フィオナと仲直りをしたくて頑張ってきたのに」
「だったらなおさら早く忘れてしまうべきですよ」
レナードは優し気な口調で私の気持ちを押しのけました。
フィオナに絶交を言い渡された日の夜、子供の頃のおまじないを思い出した私は森の屋敷へと赴きました。
たった一人での冒険の末に思い出の品を手に入れたものの、帰りがけに降りていた階段が崩れ出し、せっかく持って行ったランプとマッチを無くしてしまいました。
それでも何事もなく帰ってこれたのは幸いでしたが、彼女と仲直りする事はできず、毎日のように悪夢にうなされ、それでも意を決して彼女と和解しようとした結果、私は光を失いました。
これだけ散々な目に遭ったのだから、レナードの言う通り彼女の事はもう考えるべきではないのかも知れません。
それでも未練がましい思いが心の中でくすぶっているのを、認めないわけにはいきません。
「なぜいつまでもあの人にこだわるのですか? 恨んでいてもおかしくないのに」
「フィオナは大切な人だから」
私は膝の上でぎゅっと握った手を小さく震わせました。
「子供の頃、泉の前で泣いているあの子を見つけた時、なんとなく自分の姿を重ねてしまったの」
「あなた達はまったく違うのに」
「私はそうは思っていなかったの。お互いに一番の理解者だと思っていたし、私達には特別な絆があると信じていた。今でも、そうだと信じたい」
「でもあの人のせいであなたは目が」
そこまで言い掛けて、彼は口を噤みました。
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