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泡沫の姫は紅に染まる

小説 ファンタジー

泡沫の姫は紅に染まる

泡沫の姫は紅に染まる

*ししゃも*

(2)

母親に捨てられた、孤独な人魚の物語。

完結

42ページ

更新:2016/03/04

説明

深い深い海の底。
海を自由に舞い踊る人魚姫。
たった1人の人間との出会いが、彼女の運命を大きく変える。

母親に捨てられた孤独な人魚の物語ーー。



2016年、どんでん返し特集に選出して頂きました。

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作品レビュー

津木野 由芽
津木野 由芽さん
【作品】泡沫の姫は紅に染まるについてのレビュー

とてもちいさいころ、真珠は人魚の涙の結晶のようなものだと思っていた。

傷ついた貝が自分を慰めるために生みだす宝石。
真珠に秘められた光沢の、美しさと痛ましさの意味をまだ知らなかったころなのに、わたしはそこに、かなしみを見たのだ。

人魚のかなしみ。

彼女たちは永劫に叶わない恋に泣く。故郷の青い塩の砂漠を想って泣く。
それが真珠になるのだと、わたしは思っていた。

人魚姫。

はじめて海面から顔をあげたとき、そこに眩しくきらめく自分だけの金星を、黄金に輝く愛の星を見つけて、人間となった人魚。変わってゆく自身の肉体への、鋭い刃の切っ先をあてられたような無力な痛み。

もうあの美しい歌は唄えない。
愛のために声を奪われたから。
もうあの青い空間を踊れない。
愛のために尾鰭を失ったから。
 
おのれの意志をつたえるすべもなく、窮屈な靴に足を傷つけられても、それでもよかった。あのひとさえいれば。

珊瑚の髪飾りも、夜光貝の首飾りも、もうとるに足りないもの。
海底にある宮殿も、海王の娘だという身分さえも霞んでしまう。

青い水晶の幼少期を海のなかに埋葬し、彼女は女になった。

宵の明星は黒く染まり、恋に苦しみ、そうしてこぼした涙は、女であることの哀しみ。男のためにすべてを捨てることも厭わない、愛のかなしみ。


人魚姫とは、そのような物語だと思っていた。

『泡沫の姫は紅に染まる』というこの物語を読んで、人魚という存在はやはり、女であることの哀しみを謳っているような気が、わたしにはした。彼女たちは男のためにすべてを捨てることを厭わない。たとえ自分自身さえも。

そして真珠が人魚の涙なのだとしたら、人魚の心臓は翡翠の色をしているのではないかと思った。


深海とおなじ翡翠の色をした碧に色づく心臓は、彼女たちが海で生きる者としてのあかし。
それが夕陽のような血の色に、紅に変化するとき、彼女たちの少女時代は終わり、女になる。
男に身を捧げることも厭うことのない、美しくて、だから恐ろしくもある女に。

わたしは翡翠が「かれ」にむけた感情が恋だとは思いません。けれども間違いなく愛だったと思います。素敵な物語を、ありがとうございました。


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2017/04/07 12:23
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