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プロローグ

岡野「んっ」

僕は声が出ないようにと、必死に耐えた。
なのに、その我慢を解くように、耳元に熱く囁きこまれてしまう。

喜多嶋「声、抑えるなよ。俺は、もっと聞きたい」
岡野「だ……って」

ひくっと腰が跳ねる。
足の間を彰さんの指先が滑っていく。
もうすっかり慣らされた体は、その後にくる甘美なまでの衝撃を知っていて、疼いた。

喜多嶋「どうされたい?」

意地悪な問いかけに、僕は抗議の意味を込めて、彰さんの腕にしがみつく。

岡野「知ってるくせに」
喜多嶋「お前の口から聞きたいんだ。ヒロ……」

掠れた声に、甘えが混じる。

岡野(いつも俺様なくせに、こんなときだけ卑怯だよ)

でも、睨みつけることもできずに、僕は従うしかないのだ。

岡野「お願い……です。早く……来て……」

羞恥に耐えて言うと、彰さんは心得たとばかりに、僕の足を大きく持ち上げた。

岡野(初めて会社で出会った時は、まさかこんなことになるなんて、思ってもなかったのに……)

岡野「ここが、今日から僕が勤める株隙会社ラクルなんだ。すごい高層ビル。しかもオフィスはここの最上階だったよね」

緊張で胸がばくばくしてくる。見あげるビルは、田舎から出てきた僕には雲にも届きそうに見えた。
首が痛くなりそうにそって見あげ、しばし動きが止まる。

岡野(こんな有名なところに就職できるなんて、思ってもみなかった……しっかり頑張らなきゃ)

いつまでも眺めているわけにもいかず、僕は覚悟を決めてエントランスへと向かった--。

2

緊張しながら、まずは社長室の中へ入る。

喜多嶋「ここが、今日からお前のオフィスだ。まずはここが社長室」

喜多嶋社長自らが癖のない髪を揺らし、余裕のある笑みを浮かべて、僕を案内してくれたのだ。
ほのかなオードトワレの香りが鼻をくすぐる。

岡野「し、失礼します」

最初に目に飛び込んできたのは、大きな窓の外に見える高層ビル。
しかも、自分の立っているところも、それに負けないくらい高い。
少し膝が揺れ、一瞬、足がすくんだくらいだ。

岡野(わー、空が近い……さすが、最上階のワンフロアを借りきってるオフィスだけのことはあるなぁ……)
喜多嶋「眺めが最高だろう」
岡野「はい」
喜多嶋「だが、最高なのは眺めだけじゃない。今から、それを見せてやるよ。案内しよう」
岡野「お願いします」

ついていこうと歩き出したものの、右手と右足が一緒に出てしまった僕を見て、喜多嶋社長がくすりと笑った。

喜多嶋「そんなにかしこまらなくていい。ここは俺の会社なんだからな。自由な気風のいいところだ」

自信たっぷりに言うその視線はまっすぐで、こちらが飲みこまれるくらい力強い。

岡野(自由って、社内はスーツの人ばかりだよ。第一、社長からして……)

社長の喜多嶋彰は肌触りのよさそうなダブルのスーツを、さりげなく着こなしている。
足元はブランド物の靴で、上質なフォルムが質実剛健ならしさを出していた。
男らしい首元にはぱりっとアイロンの効いたえりが覗いていて、いやみがない。

3

岡野(あの靴、かなり高いよね。……いかにも、仕事ができそうな感じ……さすが、株式会社ラクルのトップだ)

起業して、あっという間に上場した新進気鋭の広告代理店。

喜多嶋「ARなどのアプリを作る開発部門と、イベントの総合プロデュースをする部門があるのは知ってるな」
岡野「はい」

最近ではイベントでも、プロジェクションマッピングに力を入れていて、何度もメディアに取りあげられている会社だ。
少数精鋭と聞いていたから、まさか入れるとは思っていなかった。
しかも最終面接は社長直々で驚いたけど、これがこの会社のやり方とのこと……。

岡野(すごいワンマンで現場主義の社長って聞いたけど、思ったより気さくかな?……今もこうして案内してくれてるし……)

そこには少しほっとしていた。

喜多嶋「それにしても……」

喜多嶋社長がじいっと見つめてくるので、赤面して視線を泳がせてしまう。

岡野「なにか?」
喜多嶋「ちょっと気になるな」

すっと喜多嶋社長の手が僕の胸元へと差し入れられた。

岡野(えっ!?)
喜多嶋「やっぱり、1個半以上開いてるな」

驚いたけれど、こぶしにしているところを見ると、身幅をチェックしているらしい……。

岡野(なんで……?胸がざわざわするよ……)
喜多嶋「それ、リクルートスーツのままだろ?しかも既製品だな。袖口が隙ありすぎで肩幅もあってない。ちゃんと採寸してもらった方がいい。仕事にも影響する」
岡野「すみません。初めてで……」
喜多嶋「ボーナスが出たら、仕立て直した方がいいな。最初のボーナスでも、うちの給料なら、そこそこの物は買えるぞ」
岡野「そ、そうします」

身を堅くしながら、僕は答えた。
すっとようやく手が離れていく。

岡野(わぁ……まだ……触られた感覚が残ってる……)

僕は胸のドキドキを鎮めようと、ゆっくり深呼吸をした。

4