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プロローグ

岸「ここを、こんなにして」

冷やかな言い方のようで、僕をあおる手つきは、ひどく優しい。

岡野「だって、直哉さんが……」

岸「いけない子だ。まさか、こんなにみだらな体とはな」

言葉責めに感じて、体がますます濡れていく。

岡野「言わないでよ」
岸「嘘だな。お前は、言えば言うほど感じて、肌を上気させて、奥から私にからみつく」
岡野「んっ」

手が離れ、今度は足を取られる。
この後にくる甘い責め苦を思うと、心の奥から震えて力が抜けていくーー。

岡野(直哉さんと、こうやって結ばれるなんて……。もう昔には……戻れないよ)

岡野「ここが、今日から僕が勤める株式会社ラクルなんだ。すごい高層ビル。しかもオフィスはここの最上階だったよね」

緊張で胸がばくばくしてくる。見あげるビルは、田舎から出てきた僕には雲にも届きそうに見えた。
首が痛くなりそうなほど反り返って見あげ、しばし動きが止まる。

岡野(こんな有名なところに就職できるなんて、思ってもみなかった……しっかり頑張らなきゃ)

いつまでも眺めているわけにもいかず、僕は覚悟を決めてエントランスへと向かったーー。

2

緊張しつつ、まずは社長室に入る。
最初に目に飛び込んできたのは、大きな窓の外に見える高層ビル。
そして自分の立っているところも、それに負けないくらい高い。

岡野(わー、空が近い……さすが、最上階のワンフロアを借りきってるオフィスだけのことはあるなぁ……)

目の前正面に、その高層ビルを背負うようにして、このオフィスの社長が立っていた。
最初、逆光で眩しさに目がくらむ。

喜多嶋「今日から、ここがお前の会社だ」

数歩、僕に近づいた喜多嶋社長は癖のない髪を揺らし、余裕のある笑みを浮かべていた。
ほのかなオードトワレの香りが鼻をくすぐる。

岡野「よろしくお願いします」

さっと頭をさげると、視界に喜多嶋社長のストレートチップな靴先が目に入った。

岡野(社長の靴、かなり高いよね。……いかにも、仕事ができそうな感じ……さすが、株式会社ラクルのトップだ)

ラクルの社長・喜多嶋彰さんは肌触りのよさそうなダブルのスーツを、さりげなく着こなしている。
足元はブランド物の靴で、上質なフォルムが質実剛健ならしさを出していた。
男らしい首元にはぱりっとアイロンの効いたえりが覗いていて、いやみがない。

喜多嶋「うちがARなどのアプリを作る開発部門と、イベントの総合プロデュースをする部門があるのは知ってるな」
岡野「はい」

起業して、あっという間に上場した新進気鋭の広告代理店。
最近ではイベントでも、プロジェクションマッピングに力を入れていて、何度もメディアに取りあげられている会社だ。

岡野(少数精鋭と聞いていたから、まさか入れるなんて……まだ夢みたいだ……)

喜多嶋社長から会社の説明を聞いていると、ノックの音がして、人が入ってくる。

3

岸「社長、この案件の最終チェックをしていただけますか?」

書類を手にしたメガネで細面の男性が、さらりと前髪をかきあげながら喜多嶋社長に近づいた。

岡野(わ、きれいな顔の人……っ)

形のいい眉と薄いくちびるが、男性ながら美貌を際立たせていた。

岡野「っ!」

つい見惚れてしまうようなぞくっとする色気があって、息を飲む。
この人もタイトなスーツを、きれいなシルエットで着こなしていた。

岡野(肩パッドがしっかり入ってるから細身の体をカバーしてる……)

それでいてしっかりと絞られたウエストラインが男性なのにセクシーだ。
美意識が高いのか、胸ポケットに差しているペンの色までタイと合っている。

岡野(一分の隙もない感じだよね……自分のスーツを買うのに、それなりの情報収集だけはしたから、いろいろわかっちゃうな。結局、僕は既製品しか買えなかったんだけど……)
喜多嶋「岡野、彼は岸直哉……まあ、言わば、私の右腕だ」
岸「君が新人の岡野くん?よろしく」

先に挨拶をされてしまい、あわてて頭をさげた。

岡野「岡野ヒロです。よろしくお願いします」
岸「せいぜい、泣いて実家に帰るようなことにならないようにガンバレよ」
岡野「え……」

きれいな形のくちびるから繰り出される毒舌に、一瞬ついていけない。

岡野(そう言われても、僕には……帰る家はないんだけど……)

喜多嶋「そうだ。岸、お前が新人を案内してやってくれ」
岸「私が……ですか?」
喜多嶋「親睦を深めるといい。俺はこの後、鷲見と打ち合わせだ」

そう言うと、喜多嶋社長は部屋を出て行った。

岸「行こう」
岡野「は、はい」

4

岸さんと社長室から出ると、部屋の反対側で、ちょうど喜多嶋社長と背の高い男の人が話している。

喜多嶋「ちゃんと仕事を持ってきたか?」
鷲見「マンハッタン帰りから直で来たんだぞ。そう急かすな」

悠然と受け答えする姿は、喜多嶋社長とだと食うか食われるかの両雄並び立つという様……。

岸「鷲見慶……。わが社にとってはライバルである、株式会社リーラルのトップだ」

岸さんが、メガネの真ん中を指で押あげながら説明してくれる。

岡野「え!?リーラルって、この前ラビットランドの30周年記念イベントを取り仕切った会社ですよね」

そう言えば、細身のタイがよく合うイタリアンスーツ姿を何度もテレビで見かけた気がした。

岸「鷲見社長には、あまり近づかない方がいいから……。あの人、バイ……」

岸さんが僕に耳打ちしてくる。

岡野「バイ……?あっ!」
(男でも女でも恋愛対象はかまわないってタイプの人か……)

それに赤面していると、岸さんが僕のシャツに手のひらを這わせてきた。

5

岡野「ひぇっ!」

思わず変な声が出てしまう。

岡野(まさか、岸さんも、そっちの人!?)
岸「おい、誤解するな。体に比べてスーツが大きすぎるから、身幅のチェックしてたんだ」

こぶしの形にすると、しっかりサイズを測ったようで。

岸「1個半以上開いてるな」
岡野「は、はあ。どうも胸板が薄いみたいで」
岸「そうだな。ペラペラだ」
岡野(ペラペラ!?そうだけど……うっ)
岸「袖口が隙ありすぎで肩幅もあってない。ちゃんと採寸してもらった方がいい。仕事にも影響する」
岡野「でも、まだお金が」
岸「じゃあ、ボーナスが出たら、すぐに仕立て直せ。みすぼらしいぞ」
岡野「は、はい」
(そこまで言われたら、やるしかないよな)

この少しきつめの上司に、僕は前途多難な思いを募らせていたーー。

6