新PCレイアウトにする

小説コミック投稿コミュニティ エブリスタ

  • ただ今の総作品数
    2,347,622作品

1

朝、会社に行くとまず最初にPCを立ち上げる。それからメールチェックをするのが日課だ。


「転任?」


珍しいメールの題名に思わず口にしてしまうと、隣に座る東君が「声ででかい」なんて言うから、あたしは首をひねった。


「どういうこと?」

「聞いてないの? 広島の営業成績があまりに悪いからテコ入れに本社からエリートがやってくるって話」


ひそひそ話してるのは、課長を気にしてなんだろう。


「で、課長はどうするの?」

「噂では入れ替えって話だけど、実際のところどうだろうな」


名目上は『トレード』ってやつなんだろうけど、広島から本社かぁ。


「可哀想」


思わずそう言うと東君は「だな」と相槌を打った。

2

けど、課長が誰になろうとあたしにはどうでもいいことだ。

いつものように仕事をしてお昼になればランチのために社員食堂へむかう。


「真由ちゃんとこの課長さん、可哀想ねぇ」


目の前でそう言いながらサンドイッチをパクリとくわえるのは、あたしと同期で経理課に居るみやびちゃんだ。


「でもさ、考えようによっては本社への栄転ともとれるよね?」

「ふふ、真由ちゃんは前向きねぇ」

「前向きていうか、あたしが課長ならそうでも考えないとやってらんないって感じかな?」

「そうねぇ。そんな風に課長さんも考えられるといいわね」


別に課長がどう考えようとどうでもいいけど、とりあえず「うん」と答えてコンビニのお弁当を頬張った。

3

「そんじゃ失礼しまーす」

定時になるとさっさと退社。

これが正しい社会人の姿だ。

急いで市電に乗って市内にでる。

降りたら近くのデパートに入ってトイレのレストルームを占領して、テーブルにメイク道具を並べた。

「あー、ちょっとテカってるー」

小さく呟きながらメイクして、最期にグロスで完璧だ。

時計を見ればもうすぐ待ち合わせの時間。

デパートを出て待つのはバス停。

ここだと彼が車を止めやすいから。

信号が変わってこっちにやってくる車にドキドキする。

真っ白なVOXYが停まると、助手席の窓が開いた。

「真由、お待たせ」

「大丈夫、待ってないから!」

そう言いながら助手席に飛び乗って、彼にキスをした。

4

ディナーはファミレスでも全然オッケー。

一緒に食べられることが嬉しい。

「食後はカフェオレ?」

「うん」

ちゃんとあたしの好きなものを覚えてくれてる。
そんな些細なことが嬉しくて、楽しい。

ご飯を食べたらコンビニよって、ペットボトルの飲み物を買ったら郊外のラブホテルがいつものコース。

「仕事って忙しい?」

「うーん、ぼちぼちかな?」

「なら今度の土曜日は会える?」

「あー、土曜は接待ゴルフなんだよね」

「その後は?」

「ゴルフの後はヘトヘトでこんなことも出来ないけどいいの?」

そう言って部屋に入るなりキスをした。

5

「ん……」

まださっきの苦いコーヒーの香りがお互いの唇を行ったり来たり。

彼が好き。

「痛っ」

「気持ちいい、だろ? 真由は乳首を強く刺激されるの好きだもんな?」

彼の乱暴なエッチにも、もう慣れた。

それが刺激になってあたしの体は快楽と勘違いすらしてる。

自分の身体が彼仕様になっていくのがわかる。

「ほら、上に乗って。ちゃんと上手に腰振らなかったらお仕置きだからな?」

「ん……、あぁっ」

「はは、もしかしてお仕置きのほうが良かったりして?」

「そんなこと、んぁっ!」

もっと彼に支配されたいと思ってる。

もっと、もっと、愛されたいーー。

6

終わると、彼はコンドームをゴミ箱に捨てる。

いつだって彼は絶対に避妊してくれる。

これって愛されてるてことだよね?

「じゃ、俺、先にシャワー浴びるな? 真由は後でゆっくり浴びな。一緒に入るとまた襲っちゃうから」

「もうっ」

照れるようにそう言うと、あたしの額にキスが落ちてくる。

そして彼は一人でシャワーを浴びる。これもいつもの事。

シャワーの水音を聞きながら頭をピローに落とす。

身体のいろんなところが痛い。

だけどこの痛みも愛されてる証拠だ。

「あ、スマホ……」

枕元に置いたままの彼のスマホが震えてる。

電話? それともメールかな?

7

なんとなく、見ちゃダメって思いながらもここに放置してあるってことはあたしに気を許してくれてるってことで、だから大丈夫なんて屁理屈を頭の中で並べながらスマホの画面を見た。

『実家』

実家? 彼って一人暮らしって言ってたよね?

それってもしかして緊急事態なのかな?

彼はまだバスルームの中だ。

教えてあげるべき、だよね?

そう思って、毛布を巻きつけて、また鳴ってる彼のスマホをもってバスルームに向かった。

「ねえ、ノブ君」

「んー? まだヤり足りないの? エロいなぁ、真由は」

「違うってば、スマホが」


彼のは防水だからそのままスマホを差し出すと、彼の顔色が変わった、ような気がした。

「返せよ」

「え?」

8

奪い取るようにあたしからスマホを取ると、水浸しのままバスルームを出て無造作にタオルを肩からかけると電話に出た。

「俺、なに?」

ぶっきらぼうな言い方に、やっぱり家族か、なんて思いながら濡れてる彼の身体をぽんぽんと拭いてあげる。

「優希? なんでお前が? ママは?」

……はい? ママ?

「あ? まだ帰ってこない? ってかお前らを置いてか? あー、分かった。泣くなって、パパ、すぐに帰るから」

パ、パパぁぁぁぁぁぁ?

今のあたしの目はいつもの1.5倍くらいに大きくなってると思う。

そんなあたしの目の前で、彼は「くそっ」とバスタオルをベッドに投げつけて、脱ぎ散らかした服を着始めた。

9

「あー、俺、急用で帰るな? 風呂入りたかったら入れば? 支払いも頼むわ」

そして、呆然と立ち尽くすあたしを振り返ること無く、彼は部屋を出ていった。

いや、厳密には出ていこうとしてドアが開か無くて、彼はもう一度「くそっ!」と吐き捨てた。

「急いでるんだって! 早く精算しろよ!」

「あ、うん……」

言われて慌てて自動精算機にお金をつっこんだ。

そしてカチッとロックが解除されると彼は何も言わずに部屋から出ていった。

今度こそ。

「……なん、だったの?」

少し、頭の中を整理してみよう。

かかってきた電話は『実家』からで、自分のことをパパって……、いやいや、大の男が『ママ』ーー?

10