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赤い月とマンハッタン

 あれは大学に入学した年の夏だった。北海道にしては珍しく暑い一日だったのを覚えている。いわゆる真夏日というやつで、夕方になっても肌にまとわりつくような熱気が漂っていた。


 俺は家路の途中だったんだ。


 辺りにはすっかり夜の気配が漂っていた。どこかの家から夕餉の匂いが流れてきて、思わず鼻をひくつかせた。数匹の犬がまるで呼び合うように吠えているのが聞こえる。時々、遠くから花火の音も響いてきた。誰かがロケット花火でも飛ばしているらしい。


 いかにも夏といった風情の夕闇だった。どこか懐かしい匂いのする夜に、少し感傷的になっていた。北海道の夏は短い。だけど、だからこそ俺には愛おしいものだ。


 気持ちいい夜だな。


 夏が好きな俺は、口元を綻ばせていた。アパートの冷凍庫に常備してある氷菓を風呂上がりに食べようと心に決めて、うきうきする。暑すぎる気温だって、氷菓を更に美味しくしてくれると思えば嫌じゃない。


 ところが、ふと顔を上げたとき、その浮かれた気分が台無しにされてしまった。空に真っ赤な月が浮かんでいるのに気づいたんだ。赤い月を見たのは、この時が生まれて初めてだったように思う。しかも、それがぎょっとするほど鮮やかな色だった。どす黒い空に映える赤は血を連想させて空恐ろしい。


 なんだ、あれ。気味が悪い。さっきまで気分が良かったのに、台無しだ。


 心の中で呟きながら、つい眉をひそめた。普段は縁起ものの類は一切気にしないくせに、いつもと違う色に染まる月がなんだか不吉なものに見えて仕方なかった。それほど印象的な赤をしていたし、いつもより月が大きく見えた。

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