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第1曲 失恋の安らぎにノクターン第2番を

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第1曲 失恋の安らぎにノクターン第2番を

ふと風が草木を揺らす。そのざわめきは僕の心に届かない。それどころではなかった。高校1年生のゴールデンウィーク明け。僕は女の子の中で唯一喋れる高科(たかしな)さんを緑豊かな公園に呼び出ていた。

肩までかかる黒髪。黒水晶のような大きな瞳。不安げに見つめる彼女の視線に、僕は上手く合わせられない。暖かな陽光が彼女の白い肌を優しく包み込み、僕は生唾を飲み込んだ。

「僕は高科さんのことが好きです」

公園の噴水が偶然、告白とともに勢いを増し、僕の勇気を称えるように音を立てる。

彼女は少し驚いた顔をして、それから小さく息を吐く。口をほんの少し開け、僕から視線を少し外す。見るともなく宙を見て、見つけられない言葉を探しているようだった。僕はその小さな唇を見て、彼女の返事に耳を澄ませていた。

噴水はささやかな雨音のようにさらさらと水を受け止め、ほんの少しほんの気持ちだけ僕の興奮と緊張を涼ませてくれていた。ほんの少しの時間のはずなのに、非常に長く感じた。

高科さんはこの長いようで短い沈黙の中で言葉を見つけ、そして困ったように笑った。

「一条くん、気持ちは嬉しいんだけど……ごめんね。私、他に好きな人がいるの」

噴水は徐々に勢いを沈め、元の静かなせせらぎへと戻る。僕はこのあと何と言えばいいのかわからなかった。彼女の目がどうしてももう見れなかった。

「じゃあ……もう、行くね」

高科さんは僕が我に返る前に姿をくらますように身を忍ばして帰っていった。

まただ……と、僕はようやく失恋の実感が腹の底から湧いてきて、心臓が抜き取られたような虚無感に苛まれた。好きなのに、困らせてしまう。好きだと言えば嫌われてしまう。どうして、人を想う心がこうも無下に否定されてしまうんだ。

好きな子が僕に対して好意を抱いているかどうかわかっていれば、こんな苦しい思いもせずに済んだはずなのに……。

僕は途方に暮れて高科さんの消えた先を呆然と見つめていた。何もなかったかのようにそよ風が草木を揺らした。

しかし、僕はすぐに茂みが不自然にゴソゴソと音を立ててざわめくのを認めた。その茂みから、首輪をつけていないゴールデンレトリバーがのっそりと現れて、何を思ったのか僕を凝視したまま動きを止めた。しばらく何かを考えるかのように微動だにしなかったが、ふと思い出したようにその場に座り、退屈そうに大きな欠伸をした。

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