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咲くかもしれない

  朝からしとしと降りつづける雨はいっこうに止む気配もなく、午後になって次第に雨脚を強くしはじめた。

 ぼたぼたぼた、と傘を打つ大粒の雨垂れの音が頭上で響く。
 さしていた淡い水色の傘の柄をにぎりなおすと貴俊はいくぶん前かがみになりながら歩をゆるめた。

 用水路わきの歩道に沿って行く途中、前から来た乗用車の車輪が唸りながら足元の水溜りを容赦なく跳ね上げる。

 大きな水しぶきが上がり、たちまち制服のズボンの腿あたりまでをぐっしょりと濡らす不快感に貴俊は顔をしかめた。


(もう、やんなっちゃう…)


 水煙とともに走り去る乗用車をちらりと盗み見てため息をつくと、ふたたび小刻みに歩き出す。

 無意識のうちに内股気味になってくる自分の足の運びに気づき、強いて歩幅を広くするように努めた。


 あくまで外股に。堂々と。男らしく。


 足元を見つめながらもう今までに何百万回となくくりかえしたフレーズを口の中で唱える。

 さあ、家に帰って着替えたら、試験勉強をしなくちゃ…とりあえず。
 


 期末テストの初日、今日の古文のテストは最悪だった。見事にヤマが外れた、というほかはない。

 おまけに明日は手の付けようのないほど苦手な物理がある。自慢ではないが高2になってから受けたテストで赤点以外にとったことはない。
 

 出席日数も足りていないし、このぶんだと進級が危なくなるかもしれないぞ、と担任の教師から呼び出されて通告されたのが前回の中間テスト直後のことだ。



 この調子ではもしかすると、本当にだめかもしれない。来年も留年して2年生やり直し…。



 知っている顔のいない新学期の教室の隅で、小柄な背中をさらに丸めダンゴ虫のように押し黙って日々をおくる自分のすがたが思い浮かぶ。
 話し方も、動作のひとつさえも、後ろからひそひそと囁く声に身構える毎日。


(あいつ…ヘンじゃない?)


 あれをもう一年よぶんにやるのはうんざりな気がした。

 軽いめまいと、どこかしらけた寒々とした投げやりな気持ちが胸の中で交錯する。

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