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スプラッシュ00

雷が鳴り、豪雨が窓を叩く夜――。

僕はラボ(築20年六畳台所付きのアパート)の真ん中で、赤い液体にまみれた手のひらを見て笑った。

「くく、ふふふ……」

自分でも口角が上がっていくのが分かる。

内臓パックを傷つけて出血した時には焦ったが、連続8時間にわたる作業が終わり、ようやく最後となる肋骨パーツの換装が完了。全骨格の軽量化に成功したのだ。

完璧を求めるが故、入学式の日の電撃的な出会いをもとにトータル半年近い歳月を費やしたが、僅か1キログラム、1ミリさえ妥協せず「本物」に近づけたかった。

その情熱が、強い思いが、目の前の完璧完全な「萌型」を完成させたのだ。

仰向けに横たえられた少女は、開かれた腹部から太いケーブルが四方に散り、球体関節やパーツの繋ぎ目もある。
部分部分を見れば、確かにアンドロイドかもしれない。

だが、それ以外はどこからどう見ても「本物の人間」で、伏せたまつげや桜色の唇が視界に入る度にドキリとさせられてしまう。

僕は散乱した器具を片付けると、腹部から伸びるケーブル一本一本を外し、外装を取りつける。
痺れたふくらはぎをさすりながら立ち上がると、緊張の糸が途切れたからか、急に意識が現実に戻された。

油の臭いが鼻腔に広がってふらつく。窓の外もすっかり暗い。
僕は台所に出て換気扇のパネルと、電気パネルをタッチした。

湧き上がる達成感を胸に、軽快なステップで部屋に戻ると――。
畳の上に敷かれたブルーシートが真っ赤に染まり、少女が倒れていた。

「ひぃいいッ!」

殺人現場としか言いようがない光景に、つい小さな悲鳴を上げてしまう――が、落ち着け、これは人間の死体ではない。人間そっくりのアンドロイド――自分で造った「萌型」じゃないか。
僕はメガネを押し上げ、大きく息を吐いた。

ふむ。スリーサイズから体重、骨格、ペルソナデータ、全てが完璧。完璧だ!
見れば見るほど笑みがこぼれずにはいられない!

「ふふふ……ぶゎっははははははッ!」

僕は念願の「萌型」完成を前に、両手を広げ、天を仰いだ。
遂に――遂に、完成したのだ!

我が知識と技術の結晶にして、集大成!
「萌型」に惹かれた約十年前からほぼ全ての歳月を捧げ、蓄えた知識とノウハウによって完成させた最高傑作!

ロボ美が完成したのだぁあああああッ!

「ぶわっははははははははっはッ! げほ、げほげほッ!」

むせた。

「うるせぇぞ!」

怒鳴り声とともに壁を叩かれた。

「ひぃぃいいいッ! すびばぜん!」

反射的に頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
このアパート、壁が薄すぎだ。

というか、この雷雨よりうるさいってどんだけなんだ僕は。
急に恥ずかしくなりつつも、ロボ美の姿が視界に入り、再び笑みがこぼれた。

明日から人生が180度変わるのだから当然だろう。

こうして――人生の集大成「ロボ美」が完成した翌日――。
僕は――打ち震えていた。
先に言っておくが「感動」に、ではない。

想像とは真逆の方へ180度変わってしまった現実に対する「絶望」に、だ――。

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