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第1章 物件探し

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第1章 物件探し

渡波視点

 留年決定。

 留年決定とはつまり、留年決定。要するに留年決定だ。

 若草萌える卒業シーズン、大学四年目の三月。渡波(わたなみ)はこのくつがえらない事実に、目の前が真っ暗になった。

「キミのような優秀な学生を、あと一年も手離さずにすむとは……いやはや僥倖(ぎょうこう)」

 記憶の中で繰り返されるゼミの教授の皮肉な言葉。脳内に浮かび上がる趣味の悪い丸眼鏡と、その奥にある血色の悪い笑顔。

 ついでに春から決まっていた地元の商社の内定はもちろん、取り消しだ。

「あーくそっ! やっちまったー! やっちまったー!」

 後悔と絶望に苛まれながら、ベッドの上でジタバタ喚くこと、もがくこと、悶えること半日。

 次第に気持ちも回復し……というより開き直り、とりあえず、渡波のしたことは実家への連絡だった。おそれ多くも、田舎から上京の身の上、平謝りの覚悟は必要だろう。

 何も知らずに電話に出た母親に、現状を告げる心持ちは、まさに死刑宣告された受刑者さながらだ。

 案の定、母親から返されたのは盛大なため息と呆れ声。そして、さらなる追いうち。

「うちも家計が厳しくてねえ……。これ以上、仕送りはきびしいのよ……。野菜とお米は送るから、それでまあ、死なない程度にやりくりしてね」 

 世界はまたもや、暗転。

「……詰んだかな?」

 とはいえ、いつまでも途方にくれていても仕方がない。幸い、大学に入ってずっと続けてきたバイトがあるし、わずかながら貯金もある。一年くらい生活費には困らないだろう。

 ーー何とかなるなる!

 ポジティブシンキングは得意技。だが、人生の隠れ岩は思わぬところに立ち塞がっていた。

「……来月から俺、どこに住めばいいんだよ?」

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