/ 53ページ
この章 1/10ページ
第一章 死体を拾う女子大生

 僕がこの県立鷹月高校に入学して、まもなく半年になろうとしている。県内でも、進学校として割りと優秀な部類に含まれるこの高校に入学した時、母は
『あんたみたいに何にも興味を持たない子が、よく勉強が進んだもんだねぇ、頭の出来は私譲りだねぇ』
と、それなりに喜んでくれたが、母は良家のお嬢様だったこともあり、とびっきりのお嬢様学校である私立の星條学院高校をでていた。

 一方、父は
『高校なんてどこでもいい、大学だって偏差値なんかより、自分のやりたいことがやれる大学を選べ』
と、さも進学校に入学したことが当然とばかりに将来のことばかりを言った。

「大学ってったって、何がやりたいかなんてわからないよ。別にやりたいことなんてないし、このまま行ける大学に行って、入れる会社に入るだけだよ」
と、自分の人生観を漏らしてみたが、
『自分の道は自分で見つけるもんだ。たくさん苦労して、苦労を糧に信念を築け』
と、埒が明かなかった。

 それに両親には悪いけど、大学に入るために高校生活を犠牲に勉強するのも、なんだかひどくしんどい気がしていた。もっと省エネができるならそっちのほうが魅力的だ。と、言っても今の自分を雇ってくれる会社があるとも思えないのだが。そもそも、妹のピアノのレッスン料や、今後の音大への学費など考えれば、僕に使えるお金はあまりないはずだ。今は少なくとも、高校受験をがんばった見返りとしての、約束された3年間を満喫するだけだ。その権利が自分にはあると思う。

 それにしても、今日は朝から雲行きがあやしい。そういえば、リビングのテレビに映っていた朝番組の天気予報コーナーでは、なにやら台風がこの中部地方に近づいているとのことだった。母から言われて一応傘を持ってきたが、昼までに降り出すだろうか。

 僕が教室に入った時、幼馴染でクラスメートの藤堂哲也が、教室内で女子数人に囲まれ、なにやら質問攻めにあっている様子だった。

 珍しい光景だなと思いながらも、あの男前の藤堂なら古臭い性格ながらも、まっすぐで誠実で、おまけにルックスもまぁまぁと、女子に人気があってもおかしくはない。
 いや、やっぱり昔気質の無口な藤堂が女の子からの質問攻めにされている状況は尋常ではない……横目でチラリと藤堂を見てみた。

 案の定、次から次へと繰り出される質問攻めに、下を向いて口をパクパクさせて固まっている。

「おい、藤堂。上森先生がすぐ来いって」

 訳も知らずに出しゃばるのも自分のポリシーに反すると思ったが、藤堂のこの状況はさすがに見ていられない、不意に嘘の言葉が口から出てしまった。

「……おう。今行く」

 ぽかんと、顔を上げて僕を見た後、はっと気づいた様子で哲也が答え、慌てて教室から出ていった。

 藤堂がいなくなって、興味の対象を奪われた女子達が、口をとがらせ非難の目を僕に向けている。おいおい、仕方ないだろ?どうしてそう安々と白い目を向けられる。どうせ僕なんてそんなもんか。

 席について鞄を置くと、その女子達が今度は僕の席に集まってきた。

「中澤くん、藤堂くんってさ、ダイビングやってるの?」
 女子の一人が、南国風の表紙に若い女性ダイバーが写った雑誌を僕に差し出すと、中を開いて机に置いた。『月刊Diver』だ。

 そこには、『世界の海を見てみたい』と第されたコーナーに、紛れもなく藤堂哲也の写真入りの記事が掲載されていた。しかも上半身ハダカだ。日に焼けて、無駄な脂肪がついていない引き締まった身体。肩から腕の筋肉がやけに強調されている。抜けるように青い空に湧き立つ立体的な白い雲、真っ青で底まで見えている海面。

 そういえば、藤堂のヤツ夏休みにグアムに潜りに行くって言ってたな。一緒に行くかと誘われたが、スクーバライセンスも持ってない僕が一緒に行った所で何が出来る。第一そんな金は持ち合わせていない。結局親父さんと二人で行ったと聞いている。なんで雑誌の記事なんかになっているんだヤツは……

/ 53ページ
この章 2/10ページ

みんなが送ったスター数

59

この作品にスターを送ろう!

明日のスターも待ってます!
(1作品につき1日1回 押せます)

新着ピックアップ

急上昇ランキング|ミステリー・推理