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壱之巻・始


さぁさ、之より始まるは


あはれでをかしな之國綺譚




あはれをかしき國物語




お静かに


お静かに。








それは、とても美しき之國だった。


それは、とても優しい之國だった。


それは、とても明るきものだった。


それは、とても暖かかった。


初めて、とても眩しいと、思った。




あはれをかしき國物語


壱之巻・始

澄み渡る天には壱つの陰りもなく、天道の光が地へ注ぐ。
その光は所々を跨ぐ川や睡蓮の花を咲かせる泉へも降り注ぎ、きらきらと跳ね返しているが故にその之國をも輝かせているのだろう。

“水神(みながみ)に愛された之國、児雷也之國(じらいやのくに)”

住む民は我が之國を誇らしげに、他之國の者は称するようその之國を讃えていた。

その名を体現するかの様、児雷也之國は誠に水で溢れている。

こんなに水が溢れていればー……今生飢饉とは無縁なのであろう。


“之國取り合戦”の戦火が各地で蠢く中

確かにこの之國だけはー……まるで仏が守る様に無縁の平和が訪れていた。

決して誇るほど広大な領地を持つ理由でもないが、口にする事を恥ず程に小さなものではない。
将軍様の目を届かせるには。
また“民が苦なく暮らすには”充分な広さの児雷也之國。

その丁度真ん中に位置する所に“水神城(みながみのしろ)”と呼ばれる城があり、将軍家はここで我が之國を守っていた。

本丸と弐之丸を繋ぐ間には整えられた広大な庭園が城で働く者の心を癒す。

堀の様に広き川が流れ、傍に植えられるる蝋梅で春告鳥が歌いながら足を休めている。

その音色に耳を傾ける様、壱人の青年が朱色の橋で足を止め眺め……光を跳ね返し輝く川へ視線を移すと邪避けの様に目の周りを赤く彩った藤黄色の瞳を閉じた。


蝋梅を際立たせる様に花緑青色の木々が生い茂げ、優しい風が肌を労る様に彼を撫でる。

柔らかく揺れるは真紅の組紐で点高く結う濡れ羽色の髪。
結わる髪は背を触り柔らかく靡く。

衿と背の切れ込みを飾る装飾のみが赤く映える黒漆色の羽織は脛までを隠し、合わせて黒い着物との重々しさを隠すかの様に月白の袴が光を返していた。

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