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第1話 なぜ、あなたは僕の両親を殺したのですか?

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第1話 なぜ、あなたは僕の両親を殺したのですか?

「神に祈る時間をやろう」

いつものように罪状を読み上げた後、彼は低い声でそう言った。

「神に祈る時間をやろう」

 いつものように罪状を読み上げた後、「彼」は低い声でそう言った。ちらり、視線を腕時計へやる。

 男にしては細い手首に巻き付いた時計は古く、秒針の音が少々うるさい。

 その音が刻む時間でかっきり1分、それが目の前で椅子に縛り上げられた男に与えられた最後の時間だ。


「神……?」


 しかし、男はその時間を無駄にしかしない質問をした。その顔に困惑が浮かぶ。

 普通の日本人だ、当然だろう。

 「最後に神に祈れ」などと言われれば、目の前の光るナイフが己の首筋に狙いをつけられていたとしても、それを忘れ、首をかしげてしまうだろう。多分、僕もそうするに違いない。


 しかし「彼」は僅かに眉をしかめた。これもいつものことだ。男が神を持たないことに不満を感じているのだろう。

 とはいっても、彼自身の信じる「神」はキリスト教や、イスラム教や、仏教や、その他様々な名のついたいわゆる宗教の神ではない。

 知り合って日の浅い僕が強いて言葉にするなら、それは無神論者の神とでもいうような、矛盾した存在だ。

 彼自身、「神はいないが、僕は神を信じている」と、わけのわからないことを言うのだから仕方がない。


「ちょっと待ってくれ、お前ら、まさか本当に俺を殺す気じゃないだろうな」


 時間を刻む秒針に焦ったのか、男がいまさら慌て出す。


「あいつのことは悪かったと思ってるよ、けど、あのとき俺はまだガキだったんだ。ちょっと悪ふざけが過ぎただけだ。そんな経験、あんたにもあるだろ?」

「あと、30秒」


 低い声が時を告げる。その響きに感情の揺らぎはまったくない。

 同じく、ナイフを握った白い右手もほどよく力が抜け、微動だにしていない。


「おい、嘘だろ、嘘なんだろ? だって、俺はもう罪を償ったんだ。少年院にぶちこまれて、やっと出てきたところなんだ、もう罰は受けたんだよ、あれで終わりなんだよ、もう俺は許されたんだ、だから……」

「あと、10秒」


 カウントダウンにたじろぐ男に、無表情で「彼」は続ける。

 人を殺す、というにはあまりにそっけない「彼」の態度に、男はこれを芝居だと疑い始めたようだった。半笑いで、男はキョロキョロと辺りを見回した。

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