/ 25ページ

第一話 ホットドッグとペ●シコーラ

(1/6ページ)

第一話 ホットドッグとペ●シコーラ

 ナターシャがゆっくり目を開けると、宙に浮いていた弾薬が掌上にゆっくりと落ちてきた。それをそっと握り締めると、彼女は満足気に一息吐いた。――昨日からコツコツと作っていた魔弾の最後の一つがようやく完成したのだ。
 弾薬を握りしめたまま、ナターシャは何とはなしに左方に存在する扉に目をやった。
 何もない荒野に、扉だけがぽつんとある。壁も建物の骨組みも、屋根もない。ただ扉だけがそこにあるのだ。この不可思議な〈扉〉を、ナターシャはくぐらねばならない。その先に、灰色の魔道士の野望を打ち砕くのに必要な神器があるはずなのだ。
 それにしてもお腹が空いたわ、と思いながらナターシャは弾薬を弾薬ポーチへと仕舞いこんだ。一つ作るだけでも体力と魔力を相当使うというのに、昨日から予備ポーチの分まで作っていたのだ。腹がへるのも致し方なかった。しかしながら、既に非常食ですら尽きかけていた。近くの街へ戻ろうにも、十数日もかかる距離だ。もう後戻りもできない。
 ナターシャは深くため息を吐くと立ち上がりながらテンガロンハットを目深にかぶり直した。そしてドアノブに手をかけた。

「嗚呼、お腹が空いたなあ……」

 扉をくぐり抜けると、そこはどこかの部屋の中といった感じだった。漂ってくる良い香りに引き寄せられるかのように視線を動かすと、今まさにヴァルマフンドにかぶりつこうとしている男と目があった。男は手にしていたヴァルマフンドをゆっくりと机の上に置くと勢い良く立ち上がった。

「動かないで!」

 ナターシャは咄嗟に銃を抜き、男に向けて構えた。両手を上げながら「私はイングリッシュが話せません」とたどたどしく言う男のその言葉に、ナターシャは若干の戸惑いを覚えた。――イングリッシュ? 何だろう、それは。言葉は通じるようだが、一部の単語が共通では無いのだろうか。
 それにしても。実にいい香りだ。あのような芳しい香りはいつ振りだろうか。――不覚にも、ナターシャはこの緊急事態の最中に訪れた天国に一瞬気を取られた。そして、腹の虫が鳴いた。
 それを聞いた男は笑いながら、何やら言い、こちらへと一歩踏み出した。ナターシャは問答無用で引き金を引いたが、発砲はなされなかった。二度三度引き金を引くも状況は変わらず、しかも弾詰まりが起きているような様子もない。パニックを起こしたナターシャは勢い良く後ろを振り返った が、既に〈扉〉は消え失せていた。
 肩を掴まれて男の方へと向き直ると、男は笑顔で「ブーツ」と言った。そしてナターシャに見えるように片足を上げて、自身の素足を指差した。どうやらブーツを脱げということらしい。
 この距離では、虚を突いて後ろ腰に装備したダガーを引き抜き応戦するというのも難しい。それに、男には戦う意志はないらしい。それならば、今は男の言いなりになっておいたほうが得策か。
 ナターシャは男と視線を合わせたまま、そろそろとブーツを脱いだ。男は満足したかのようにニッと笑うと、素早くナターシャの背後へと回った。そして彼女の両肩を掴み、進めとでも言いたげにグイグイと押しやった。――ヴァルマフンドの方へと。
 四、五歩ほど歩くともう、あの芳しい天国の園の元へと辿り着いた。床にそのまま腰を下ろすのはあり得ないとナターシャは思ったが、訛りのある言葉で「座って」と男が言うのでそれに従った。

/ 25ページ

第一話 ホットドッグとペ●シコーラ

(2/6ページ)

みんなが送ったスター数

148

この作品にスターを送ろう!

明日のスターも待ってます!
(1作品につき1日1回 押せます)

新着ピックアップ

急上昇ランキング|ファンタジー