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第1章

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第1章

 求人公告から面接の約束を取り付け、私は初めて来る町を歩いていた。あいにく朝からの雨で、しかも目的地の会社の近くはろくに目印となる建物もない住宅街のようで、スマホのナビ片手に私は何だかひどく不安な気持ちだった。時間帯のせいか、天気のせいか、車が時折通る他は歩いている人もいない。なんだか、ゴーストタウンを歩いているようだった。
 曲がり角を曲がった途端、雨雲でくすんだ町並みに鮮やかな赤色があって、私の目は吸い寄せられた。
 道の先に、背中をこちらに向ける格好で、赤い傘をさした人が立っている。上半身は傘で隠れて見えないけれど、ブラウンのスカートとこれまたブラウンのパンプスが見えるので、女の人だろう。
 子供用の青い傘を持って、正面にある××絵画教室の方を見ているから、きっと子供のお迎えだ。
 彼女の方に近付きながら、私の心は何か違和感を覚えた。そして気づいた。
 今日は朝から雨だった。この人の子供も、当然傘をさして教室へ行ったはず。当然、帰りはその傘を使えばいい。防犯のために迎えに来るとしても、母親が傘を持って来る必要はないはずだ。
 あ、でも行きは車で送っていって、何かで車が使えなくなったとかならありえるか。
 推理小説を読むのが好きな私は、そんな事を考えながらその女性の方に近付いていった。
 一時的に雲が薄くなったのか、傍にあるカーブミラーが光り、私は反射的に目を向けた。角度の関係でこちらからは見えない傘の向こう側――つまり女性の正面の姿――が、鏡に映っている。
 上半身がない。
 正確に言うと、頭と胴体がないのだ。赤い傘をさす右手と、子供用の青い傘を持つ左手だけが、あるべき場所に浮かんでいる。そして下半身だけのマネキンのような腰から下。
 私は立ちすくんだ。足と手が震える。心臓が壊れるんじゃないかと思うほど鼓動が速くなった。
 こちらに気付いているのかいないのか、女性は同じ姿勢で立ったままだ。
「まったく……」
 喉も頭もない幽霊が、どうやってしゃべったのか分からない。そもそも、本当に声だったのか、テレパシーのような物だったのかも分からない。ただ、確かに彼女はこう呟いた。
「まったく、まだ教室は終わらないのかしら」
 その一言がきっかけになったのか、私はようやく動けるようになった。
 もう面接どころではなくて、私は何度も転びそうになりながらその場から逃げ出した。

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