『ある朝、目が覚めたら「夫婦」が「婦夫」になってました』

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『ある朝、目が覚めたら「夫婦」が「婦夫」になってました』

 残暑も過ぎ、ようやく秋も深まり肌寒さを覚え始めた九月の早朝。  とある田舎町にある一戸建て住宅の寝室に無粋な目覚まし時計の電子音が鳴り響いた。 ――ピピピピピ、ピピピピピ……。ピピピピピ、ピピピピピ―― 「んあ? ふぁーあ」  俺は、洋間の寝室で生あくびをかみ殺しながら目覚ましを止める。  町の小さな会社に勤めるアラフォーの俺は、美人の妻と可愛い子供には恵まれたものの、いつまで経っても出世できない万年係長のしがないサラリーマンだ。 「畜生、もう朝かよ……」  寝ぼけ眼のまま、まるでセミの抜け殻のように布団から抜け出した俺の脳裏に、昨晩いつものように妻と口喧嘩した嫌な記憶が蘇ってきた。 「クソッ」  チッと舌打ちしながら大きなダブルサイズのベッドから降りる。冷たいフローリングの床から素足の裏へと伝わるひんやりとした感触にようやく目が覚めた。  気分は乗らないが仕方がない。フゥーっと一つため息をつき、意を決して妻に声を掛けてみる。 「おーい、真由美。朝だぞ?」 「……」  隣で寝ている美人な妻は、頭までスッポリと布団を被ったままで返事もしない。     
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