是 甲子六月五日 続ク変事

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きょとんとされても、誰より我が儘だと知り得、そうあるべきだと思う…そんな人が、何かを求めれば。 きっとそれは、一つになんて留まらないよ。 「う~ん…まずは何かなぁ」 ほら…ね。 一つだけ、だなんて言わなかったし、敢えて言ってないんだけどさ? そこに気付ける抜け目の無さ、重要でしょ。 気付かなきゃ普通、人は勝手に考えを一つに絞るだろう。 普通じゃ困るんだ。 利用出来る物事は利用する…人はそれを狡いと言うかもで、事と次第によっては俺もまた、やめて欲しいと言うかもだけどさ。 本当に狡い? 言い忘れた側が、ここぞって時にしてやられるだけで…悪い男は、とことん。 相手へ油断ならん相手と思わせる手は…些細な手でも使うのが狡い? 「…まず」 「はい」 「僕は違うけど。早く戻る事だ。皆…何を仕出かすか…置いてくよ?」 笑われた… それが酷く、贅沢な事だと一度…目を閉じた。 「…何時か、本当に。戻れる時まで先生の話は絶対にしないで下さいね」 「!…タダで応じてよ」 「誰がタダでと?」 「…ハハ!全く…面白い」 してやられても互いに笑える今が、より贅沢。 「しかし…難題だね」 「俺の中で。何度も繰り返し自問自答して、責めて責めて…責め飽きるまでは…。例え何も、答えなど見つからなくても一人で探してみたくて」 「…彼の…君への課題かな…?」 「!…なら余計」 最後に 頂けた 笑顔の有難うは─… 「このまま、枷[かせ]やおもりにしたくない…」 この苦しさは 後悔より、罪悪感…か? 「意味不明でしょうが…俺にはまだ。俺の知らない先生の話を聞き入れる場所が無い…薄れさせる訳にはいかない…」 遺書も入ってしまった。 「何時か…変わりますから今はまだ」 混沌とした海と空の狭間で、何度となく浮き沈み…してしまうのが分かっているから。 「一人で隠れ簑へ…とことんまで堕ち切って無駄にしてきた時も、無力さも一人で噛み砕いて先への何かに、変えられる強さが」 強く握った拳は決意じゃなく、ひとえに。 今はまだ、何も無い己が悔しく、情けない。 「皆…甘いです」 「まぁ…まだ急ぐ時では」 「ぶん殴ってでもって、狂暴なヤツが居ないんで、俺…どんな顔して戻れば良いのか」 「き…君を殴った後…シバき廻される…」 「桂さんがして下さい」 「無理。桂って名字の親戚連れて来る」 「迷惑…あなた双方にシバき廻されますね」
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