#11

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 別に待ち合わせなら、こんな高級ホテルじゃなくても良かったはずだ。はじめて会ったときのように、しっかり気合いを入れ着飾ってきたけれど、樹にはふだんのだらしない姿をもう見られているわけで、あまり意味がないような気がする。 「美紘さん、今日は見違えました。ワンピース、よく似合ってますよ」  そんなことを樹が言うので、ふざけているのだと思った。 「お見合いの続きですか? でしたら自己紹介からはじめましょうか? 沢田美紘、30歳、小学校の教師をやっています。大口開けて笑います。ガサツです。まったく女らしくありません。料理はレパートリーが少なく、部屋は散らかしほうだいです。よろしくお願いします」  そう言ったら。 「神谷樹です。29歳です。建設会社に勤めています。勤務態度はいたって真面目です。過去には女性にだらしないところもありましたが、心を入れ替えて、これからは生涯一人の女性だけと決めています。だから、結婚を前提におつきあいしてください」  樹がテーブルの上に指輪のケースを置いた。すっと、私の前に差し出す。 「おつきあいの段階で指輪は早すぎると思いますよ。これ、すごく高価なものだし、重すぎると思います」  今さらおつきあいって、どういうことだろう。冗談なの? 本気なの?  それともまた、思いやりなのだろうか。 「だったら、すぐに、僕と結婚してください。指輪、返されても困ります。言いましたよね、美紘さんにしか似合わないって」     
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