3061人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
別に待ち合わせなら、こんな高級ホテルじゃなくても良かったはずだ。はじめて会ったときのように、しっかり気合いを入れ着飾ってきたけれど、樹にはふだんのだらしない姿をもう見られているわけで、あまり意味がないような気がする。
「美紘さん、今日は見違えました。ワンピース、よく似合ってますよ」
そんなことを樹が言うので、ふざけているのだと思った。
「お見合いの続きですか? でしたら自己紹介からはじめましょうか? 沢田美紘、30歳、小学校の教師をやっています。大口開けて笑います。ガサツです。まったく女らしくありません。料理はレパートリーが少なく、部屋は散らかしほうだいです。よろしくお願いします」
そう言ったら。
「神谷樹です。29歳です。建設会社に勤めています。勤務態度はいたって真面目です。過去には女性にだらしないところもありましたが、心を入れ替えて、これからは生涯一人の女性だけと決めています。だから、結婚を前提におつきあいしてください」
樹がテーブルの上に指輪のケースを置いた。すっと、私の前に差し出す。
「おつきあいの段階で指輪は早すぎると思いますよ。これ、すごく高価なものだし、重すぎると思います」
今さらおつきあいって、どういうことだろう。冗談なの? 本気なの?
それともまた、思いやりなのだろうか。
「だったら、すぐに、僕と結婚してください。指輪、返されても困ります。言いましたよね、美紘さんにしか似合わないって」
最初のコメントを投稿しよう!