壱ノ巻

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「は、はい・・・。」 とりあえず、何か大切な物のようなので、持ってきた箱の中で一番丈夫な物に入れておく。 「うむ。では、我はもう行こう。コウが治るまでよろしく頼む。」 「はい、勿論でございます!」 しっかり生活できるようになるまで、しっかりと治療させていただきますとも! 私を含め、全員が平伏する。 その中で、首領様は部屋を去っていったのだった。 「皆の者、面をあげろ。」 しんと静まり返った中で、コウ様の声が響く。 それに合わせて顔を上げると、凛とした表情のコウ様が全員の顔を見回し、口を開いた。 「これで、この娘の罪は晴れただろう。この娘を俺が治るまでこの部屋に常駐させることに反対する者はいないな?」 誰も声を上げない。 つまりは、私はまだここで治療にあたってもいい、ということで。 心の中で拳を上げる。 良かった、本当に、良かった。 誰かも分からない人(又はアヤカシ様)に引き継いで帰らなければならないかも、と覚悟を決めていたので、とても安心した。 誰かに任せて治療放棄をするなんてとてもじゃないが薬師と言えない。 良かった。 「ありがとうございます。この小鈴、精一杯務めさせていただきます故、何卒宜しくお願い致します。」 できるだけ形式ばった言葉で宣言する。 これで、しっかりと治療に専念することができる! 「これで分かったな。・・・では、これにて解散とする。」 コウ様がそう言うと、兵士のアヤカシ様たちが礼をしながら部屋を後にしていく。 どうやら、警備などの本来の仕事に戻るようで。 私の後ろに居た兵士様は一度礼をした後、私にも目礼をして部屋を出ていった。 人(?)口密度が少なくなり、私はその場に座ったまま、コウ様を見る。 「こちらへ来い。」 ひょいひょいと手招きをするコウ様につられて正座のまま近付く。 「どうされましたか。」 「いや、謝りたかったのだ。君のように勇気のある者に縄をかけ、引き倒すなど、言語道断だろう。傷ついてまで俺を守ろうとしてくれた、命の恩人に感謝こそすれ、危害を加えさせるなどもってのほかだ。」 「いえ、そんな。私はただ当たり前のことをしたまでです。気になされないでください。」 「それでも、言わせてくれ。すまない、そして、ありがとう。」 ここで受け取らないのは逆に失礼だな。 「こちらこそ。」
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