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松陰に申し訳ないと自責の念に駆られながらも、会いに行く事も文を出す勇気も無いまま一人耐え過ごす。
お会いしたい…のに。
塾生達づてに栄太の様子を知った松陰から、気を病む必要などありませんよ、僕は間違った事はしていないのですから、と文が届くも…
やはり自分が…赦せない。
そんな折り―…
遂に松陰は江戸送りとなった。
松陰を引き渡せと幕命が下ってしまったのだ。
激しい弾圧の話は聞いていた。
捕らえられた志士達は問答無用な迄に処分されている事も。
江戸に行ったら…きっともう、二度と先生に会えない!
「嘘、だ……そ…んな―…!」
…栄太は、歯を食い縛って泣いた。
何故先生を守る事が出来ない!
大事な人なのに…!
何故先生が…!
泣いて泣いて迎えた翌日は松陰が檻送される日。
その日は、ずっと。
雨が降り注いでいた。
久坂達は松陰の乗った駕籠を道端から、雨と涙に咽び見送る。
高杉は江戸に居る為、入牢後の松陰とやり取りが出来る。
栄太は…家から出れずに居た。
仲間達にこの家の前を松陰が通る事も聞いていたが。
一睡もせず狭い座敷にずっと座ったままだった栄太は、刻が近付くと苦悶に表情を歪める。
会いたくて仕方ないのに…合わせる顔など…顔を合わせる事自体が、怖くなっていた。
だが…だが……
―…せめて先生の乗った駕籠を一目だけでも!!
その思いのままに栄太は立ち上がり、草履も履かず外へ飛び出した。
降り続く雨が一気に着物を重くする。
道に出そうになった足を止めた栄太は、暫し睨む様に空を見上げ、思いを振り切る様に踵を返す。
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