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「……な、なんだよ。そんな真剣に考え込むもんか?」
随分と長い間黙ってしまったらしい。はっとして顔を上げると、そこには困惑気味な表情を浮かべる火鷹さんが居た。
たかだか好きな食べ物さえ答えられないなんて、情けない。好きな食べ物なんて沢山あるはずなのに、いや、だからこそまとまらないんだ。一番が決められない。本当に好きなものが、わからない。
「ご、ごめんなさい。一つに絞れなくって……」
「あー、わかるわかる!」
火鷹さんは「中々決められないよなあ、一番って」と付け加える。
「じゃあさ、こういうのはどうだよ。好きな食べ物色々挙げて、銀二にフルコース作ってもらうっていうのは!」
「はあ!?お、おい、勝手なことを」
銀二さんが慌てて立ち上がる。にやにやと悪い笑顔を浮かべる火鷹さんはすこぶる意地が悪そうに見えた。
でも、その反面。俺は、この人の作るフルコースが気になって仕方がなかった。
はっきり言おう。めちゃくちゃ食べたい。
「……海草サラダ……」
「海草?」
「茄子の味噌汁、小松菜の酢味噌和え、炊き込みご飯に豚の生姜焼き、あと琥珀糖!」
「いやそんなめんどくさ……琥珀糖!?」
そこまで言い切って、俺は我に返る。
(しまった!まだいいとすら言われてないのに!)
なんて図々しい真似をしてしまったのだろうか。咄嗟だったとは言え、火鷹さんに乗せられてしまうとは。しかも琥珀糖に至っては食べた事すら無い。
俺は助けを求めるように火鷹さんを見つめた。が、当の火鷹さんはゲラゲラ笑いながら手を叩いている。
俺が額を押さえ俯くと、銀二さんは溜め息を吐いて「顔をあげろ」と言った。
「……めんどくさいが、まあ普通の夕飯の範疇だな。作れないことも無い」
「えっ……?」
「ていうか俺は、現役の男子高校生の口から琥珀糖って言葉が出てくることの方に驚いた……」
琥珀糖なんて作ったことないぞ、と付け足す銀二さんに、内心(俺も食べたことないです)と謝ってみて、なんだかちょっとだけ申し訳ない気持ちになってしまう。
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