33、過ぎし日の幻影。(英輔)

39/126
30479人が本棚に入れています
本棚に追加
/1726ページ
上山悠香はクラスではまったく目立たない地味な子で、友人もいるのかいないのかはっきりしない。 休憩中は静かに読書をしているし、誰かと騒いでいるような様子を見たことがない。 けれど、仲間外れにされているとか、いじめられているとか、そう言った様子はなく、移動授業のときはクラスメートと普通に仲良さげに話しながら移動している。 ただ、存在感が薄いだけで。 しかし、その個性は強烈である。 彼女はたびたび質問をしに来るのだが、だいたいほとんどわかっていることが多い。 それでも少しの疑問を解消させるためか、わざわざ俺のところに来る。 そして納得のいく答えが得られないと険しい顔をして帰っていく。 まるで、あなたでは話になりません、とでも言うかのように。 「あーもう、難しいなあ」 机に座って頭を抱えていると、別の数学の先生に声をかけられる。 「彼女は勉強熱心なんですね」 「熱心なのはわかりますけど、何を考えているのかわからないんですよ」 「お年頃の女子は難しいですからねえ」 「そうですかね」 他の子たちは気軽に話しかけてくれるし、おとなしい子でもこちらから話しかければ応答はある。 上山の場合は、俺に対しての態度だけあからさまに違うということ。
/1726ページ

最初のコメントを投稿しよう!