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真由子が指定してきたのは、渋谷駅に直結したホテルのカフェだった。ガラス窓からはスクランブル交差点が見下ろせる。
たぶん、行き交う人々を眺めているのだろう。真由子はけだるそうに椅子にもたれていた。明るい場所に似合わない女だと思った。
「どうぞ」
テーブルに診察券を置いた。
「座ったら?」
向かいの椅子に腰を下ろす。
「コーヒーでいい? まだお酒を飲む時間じゃないでしょう?」
「すぐに帰るよ」
真由子は俺の言葉を無視して、ウェイターを呼び、ホットコーヒーを注文する。
「終わったはずだろ、俺たち」
「そういうわけにもいかないの。あまり時間が無いのよ」
「時間が無いって、何? 俺に関係ある?」
「私の夫に会って」
とんでもないことを言いだした。来るんじゃなかった、今度はどんな罠なんだ。真由子の闇は想像以上に深い。
「嫌だね、巻き込むなよ」
「本当はもっと若い男でも良かったけど」
何の話をしているんだろう。若い男がいいなら、好きにすればいい。
「神谷くんとの子供が欲しい」
……え?
お待たせしました、と、コーヒーが置かれる。口をつける気になれなかった。
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