たすう存在

一切の固有名詞を排除した、浮遊感のある作品です。 全てにおいて薄靄がかかっているかのような雰囲気の中、でもそこに綴られる物語は酷く残酷で無機質で真摯です。 SF的な、あるいは倫理を問いかけるような内容でありながらも、各章タイトルや、アドベントカレンダー、シュトーレン、ティーカップのラピス色の装飾などの小道具、そして何よりも「生誕」というテーマが、生半にクリスマスを舞台としただけの小説などとは比べるべくもないほど重厚なクリスマス感を演出しています。 また物語の鍵となる体外受精や遺伝子操作などの技術は、昨今話題になることの多いテーマでもありますが、この作品に解答は記されていません。 ただ、各々の「選択」があり、その終結点としてのエンディングが描かれているだけです。 おそらくこの物語では解答ではなく、その問い掛けこそが重要なのでしょう。 登場人物たちの採った選択も極論を言えば、解答例でしかないのではないか、とそう思いました。 生命倫理―― これは聖なる夜だからこそ、問い掛けてみるべき命題なのかもしれません。 でも固っ苦しいことを抜きにしても面白かったですし、作品世界にしっかりと浸り込むことのできる逸品でした。 あと、僭越ながら以下に蛇足な指摘を。 「今現在」、研究施設や実験室、手術室の滅菌処理にはホルマリン燻蒸、もしくは割合は少ないですが過酢酸燻蒸が用いられています。 高熱による処理では実験器具などで熱に強いものに対しては高圧蒸気滅菌を行いますが、施設そのものの滅菌で熱処理が行われることはありません。 あくまでも現実は、という話です。 僕的には演出的には高熱という処理方法の方があのエンディングには相応しいとは思いましたが、一応指摘させていただきました。 ご存知のうえでの演出でしたら申し訳ありません。
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レビューありがとうございますm(__)m 固有名詞を付けるか付けないか、すごく迷った所だったりします。おとぎ話感が出てたら良いなあと思いますヾ(@゜▽゜@)ノ そして、最後の演出もかなり悩んだ部分です( ̄▽ ̄;)精密器機は熱に弱い……。そして、薬剤を使った滅菌処理は大抵人体にあんまり影響ない仕様……。 まあいっかと蓋をしたところです。 やはしその辺りの考証が難しいですサイエンス(笑) ありがとうございましたm(__)m

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