つかさ

薄紅色の光の剣が虚空に円を描く。 たったそれだけの動作で地面が抉れ、空気が断たれ 、全てが遮断されてしまう。 「どうした? それが本気なのか…?」 無線機越しに喋りかけるような、ノイズの入った酷く冷たい男の声。 この声を俺は知っている…ー 何故だ? どこで知った? 分からない。 だが、自分の脳裏には確実にこの声の主を知っていると断言している。 「お前は…いったい……?」 何者なんだ…この男は。 どうして、こんな場所にこんな力を持った者が現れる。 「酷く…怯えているな。俺が…怖いか?」 無機質に、冷たく、男の声が響く。 ゆらりと陽炎の如くかざされた腕が、その男の全身を覆っていたマントから姿を現す。 「お前は、何なんだ…!?」 その腕を一言で表すのなら、それは機械。 絵に描いたロボットのような腕が、白い外装に覆われて伸びている。 「俺は、人間だよ。異世界で白い悪魔と呼ばれ、英雄と称えられた…何処にでも居るような、しがない人間さ」 もう、わけがわからない。 乾いた喉が呼吸を早める。 「…イマイチ理解してないって顔をしているな。俺はお前の事を知っているぞ…杉崎つかさ!」 「…っ!?」 直接心臓を掴まれたかのように、鼓動が大きくなったのを感じた。 向こうも俺を知っている…? 何故、俺は思い出せないんだ…? 忘れているのか…? 目の前に立つこの男は一体…? 「……悲しいな。そんな敵意の篭った目を向けないでくれよ」 「黙れ! お前は…お前は誰なんだ!? どうして俺を知っている!?」 この男の白々しい声に、思わず反発して声を荒げてしまう。 「本当にわからないみたいだな…まったく、穏やかじゃない。なぁ、つかさ」 「くっ……! ふざけるなぁっ!!」 空気を撃ち出していた先程までとは違う、圧縮した空気を奴の目前で炸裂させた。 耳を劈くような爆発音と、水素と酸素による爆炎。 その二つが奴に襲いかかる。 『この程度じゃ、まだまだだな。俺には効かない』 「嘘……だろ…?」 揺らめく影はそこに平然と佇んでいた。
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