シャーロキアン歓喜!  ここまで計算づくで「才能を使い遊べる」名探偵と作家様は、なかなかいらっしゃらないでしょう。  流体力学のセオリーをさらりとコーンスープという《身近なもの》に投影するテクニック。  帰納法を効果的に用いて、事件の背後関係やそのシチュエーションのロジックを組み立てるという発想と構成力。嬉しくなりますね。  また、主人公を始めとする全登場人物の名前に、古今東西のミステリーへのオマージュが感じられて、敢えて狙い撃ちにした(読者ターゲットがミステリマニアであればある程、この効果は絶大なものとなる)設定と相まって楽しいです。  灰(色の脳細胞、エルキュール・ポアロ)やアイリーン、モーリアーティ教授、何といってもシャーロック・ホームズのデビュー作である『緋色の研究』からのイタダキに加え、扱っている事件そのものにも極めて高度な《仕掛け》が見え隠れしています。  通常、個性的な登場人物(スペックが高ければ高いほど)が複数出ると、興味を持たれる反面、肝心の物語の方が疎かになりやすい傾向もあるのですが、作者様がベーシックを留意しつつ執筆している為、読み物としてのリーダビリティーが高く、作品世界に入り込めるのです。  日本のミステリ界では、若干パロディやパスティージュが軽視されて来たようなので、ここに来てブレイクスルーポジションの作品が生まれたことは、大変喜ばしいと思います。

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