陶山千鶴

カラン、コロンと足音が夜中に響き、口笛を吹きながら、男は屋根の上を歩く。大きなカボチャ頭にボロをまとったその姿は、カボチャのお化け、ジャック・オー・ランタンのようだ。 「ホホホホ、よい、夜ですねぇ、伊織嬢?」 と男は立ち止まり、屋根に座る少女に語りかけた。白髪に青色の着物少女は、男を一目見てツイッとそっぽむく。 「オヤオヤ、どうされたのですかな。伊織嬢、いつもの強気な態度はどうされたのですか? まるで、思春期の少女のようですぞ?」 「なんでもない」 「ほほう? もしや、山都少年にいつまでも放置をくらって、ご機嫌斜めですかな? ハッハー、なんと、おごぉ!?」 伊織の拳がカボチャ頭に突き刺さり、ドンッと吹っ飛んでいく。 「なんでもないと言っているだろうが!! このロリコン野郎!!」 「ホホホホ、ロリコン野郎とはヒドイ言いぐさですなぁ。私はジャック・オー・ランタン!! ハロウィンのお化け、子供達のシンボルですよぉ!?」 「何が、ハロウィンのシンボルだ。死亡した子供達の霊をあの世に招いて要るだけだろうが!!」 ジャック・オー・ランタンは、さまざまな俗説があるが、一言で言い表すなら、彷徨える幽霊である。 「まぁ、確かに、様々な伝承がありますからなぁ。伝説の殺人鬼、神出鬼没な笛吹男、ハロウィンに出没するカボチャ頭、さて、本物のわたくしはなんなのでしょう? 物語の神様である、伊織嬢は何か知っているのでしょうか?」 ホホホホと笑う、カボチャ頭はカラン、コロンと足音を鳴らして、踊る。 「今更、そんなこと知っても、どうしようもないだろう。さっさと消えろ」 「ホホホホ、消えたくても、消えられないのですよ。わたくしの正体がわかれば、それでよいのですがね」 カボチャ頭は頭を揺らす。チッと伊織は舌打ちした。このカボチャ頭、一度、絡むとなかなか居なくならない。まるで、寂しがり屋の子供のように、いつまでつきまとってくる。 「さぁさぁ、伊織嬢、わたくしと遊びましょうよ。楽しい夜の始まりですぞ?」 カラコロと足音を鳴らして、カボチャ頭は笑うのだった。
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