東唐 麟

理系の知識を交えた模写が背伸びするでもなくピタリとハマり、並々ならぬ力量を感じました。 特殊能力を備えた女子高生という有りがちな設定であるにも関わらず、物語はヒーローが本来、引き起こすであろうカタルシス的な高揚感もないまま、普通の女子高生の日常の心の葛藤をメインに進んでいきます。この辺の進め方がとても上手い。物語は「あるあるネタ」を随所に散りばめ、読者を引き込むことが大事だと思う訳ですが、あ~!その心情わかるわかる!という小ネタが上手にはめ込まれて、共感を呼び込むばかりでなく、それがリアリティを伴い、物語に膨らみを持たせています。 無理矢理、細かい点を上げるとするなら、娘を失った母親の心情とか、ボーイフレンドの心情などが置き去りにされているなと感じるところです。主人公の心情がとても上手く描けている分、その対比としてちょっと物足りなく感じました。それと、結末が、リアリティを追求した結果かと思われますが、もちろん紋切り型の結末という訳でもないんですが、落ち着くべきところに落ち着いた感があります。看護師になって命を回す使命に目覚め、自己を押し殺して生きていくという結末は、悪くないけど、もう一捻り欲しいと思いました。 主人公が描いた青の絵、に力点を置かれていたので、(これが素晴らしく、ピンと緊張感を伴う模写だった)その辺を絡めた結末になるのかなあと予想していましたが…… しかし、そんな細かい点はこの作者の力量なら簡単に修正できることなので、全く問題とは思えません。隙のないストーリー展開、リアリティ、心情の模写、どれも一級品です。良いものを読ませてもらいました。謝謝
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