しのき美緒

恋人に、少しだけ見栄を張ったことは誰にでもある思い出ではないでしょうか。 涼も最愛の女性春香のためにクリームソーダを自作しようと、あれこれ何やら調べて、いかにも自分は料理が得意である、というふりをします。 春香は心優しく少々天然で誰からも愛される女性。 そのふたりの優しく穏やかなやりとりが繊細に丁寧に描かれます。 恋人たちのほのぼのとしたささやかな日常は、読み手の気持ちまで温かくしてくれるようです。 ですから、6ページの文章 『独りぼっちのチェリーはなんだか寂しげだ。 「残すつもりはなかったんだけどね?」』 という涼の言葉、これが物語の重要な伏線となっていることは、ごくごく自然すぎて一度目に読んだときには気づきませんでした。 そして急転直下のラスト。叩きつけられたのは涼なのか、読者なのか。 「ねえ、春香。 俺は残していくつもりなんてなかったんだ」 最後まで最愛の女性を気遣う彼の優しさが悲しく、心を揺さぶられます。 作者様が『ひどく難産だった』というとおり、三題を有機的に結びつけることは非常に難しかったと推察いたしますが、さらにそれを不自然でない構成にし、「作品」にまで高めた作者様の技量に感服しました。 最後になりましたが、イベントへのご参加、ありがとうございました。 しのき美緒
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