ノリアキラ

【 あの人のコト 】(2/2) 「オイ……その話、あいつから聞いたのか?」  フォンが額まで真っ赤にしながら、後ろ頭に手を置いて首を垂れる。 彼が眉を寄せると、 「別に今に始まった事じゃない。あいつ、それはずっと言ってる。顔合わせるたび、ずっと」  その情報は初耳だ。呆気にとられていると、 「オレはお前の義弟だっただけでそういう対象じゃねぇって何度も言うんだが理解しねぇ。オレは女の子が好きで、その気はねぇってのに、それも良いって言う。何が「良い」んだ? 前提がオカシイだろ。ずっとそれが言いたいんだが」  頭を両手で抱えて、フォンは、本当に困惑気味だ。今は耳の裏まで朱に染まっているのは、真剣にこの話が恥ずかしいのだろう。  続く言葉に、彼は無意識に自身の道着の袴を膝の上で拳に握り込んでいる。 「でも、なんか、あいつ、一人でオレの分まで惚れたハレタを賄っちまいそうな勢いあるだろ?   だんだん煙に巻かれて、訳わからなくなるんだ。何言ってもこっちの話、理解しやがらねぇし。どう考えたってアイツの方が頭いいし、弁もたつ。最後にゃアイツの言う事の方が正しいのかって気がしてくるから怖ぇんだ。  面付き合わせてると、説得されて、ウンと言わされそうでさ。これまでも、何度かエライ目に遭いかけた。今回はとんでもなく恩も受けた。とうてい理屈じゃ勝てそうにない。  だから、正直、できたら永遠に顔合わせず済ませたいんだが、こりゃ、オレが贅沢で我儘って事になるのかねぇ?」  答えを求めるように見上げられた目が、何を思いだしているのか、既に混乱している。  あのフォンが。  真っ赤に蒸気した顔で口を覆い、頼りなげに眉を寄せて目線を逃す。今、その脳内を席巻しているのが、あの男のどのような口説き文句であるのかを想像するだに慄然となる。 「切実に調子狂うんだ。アイツだけには勝てる気がしねぇ」  もうこれ以上は耳が焼ける。 「何が、我儘なものか。それは、烏丸公が悪い」  手を取ってこちらを向かせたのは、自分から話を振ったくせ、一秒でもこれ以上あの男の事を考えさせたくないからだ。 「ここにいなさい」  引き寄せて言った彼の強い勢いに、フォンが少し別種の混乱を感じた顔で、しかし、こくこくと頭を上下させた。 https://estar.jp/novels/24108425
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