ノリアキラ

【 ケチャップ 】(2/2)  頃合いを見計らって虫養いが運ばれてくる。 今日はホットドック。歓声があがる。マスタードだののボトルは共用だ。活気溢れた様を眺める彼らの元にフォンがやってきてニンマリ笑う。 「なぁ。また、ダンビラ教えてくれよ」  願ってもない。ちらりと時間を見た。 「この間と同じ時間はどうだ。遅いかね?」 「全然。何もないし……むしろ申し訳ねぇくらい」  その、遠くを見る笑顔にどきりとなる。 何故かフォンがここを離れる事を考えている気がした。  思わず腕を取る。  しかし、彼がその手を掴んだのと、フォンが廻ってきたケチャップのボトルを握ったのが同時だ。ボトルの中身が彼に飛ぶ。  露わな彼の腰骨から腹筋を横切り臍まで、赤い痕がまっすぐに線を引いた。彼は冷静に澤田に手ぬぐいを求めようと身を捻じる。 「動くな」  だが、その前にフォンが右手の人さし指で無造作にそれをぞろりと拭い取った。  ……判っている。 フォンに他意はない。  しかし、堪らない。 滅多に誰にも触れられぬ場所をなぞられ、すくみ上る。  目を剥く彼の前、フォンが彼の腹から自分の指に移した赤いそれを舌で嘗めとり、手にしたホットドックにかぶりつく。  直視してしまった様に汗がドッと湧く。 ぞくり、ぞくりと。  全身が、突然、惑乱の炎をあげる。 「気ィつけろよ。道着、染みになるぜ」  凝視する彼に、フォンがニッと笑った。 瞬間、誰にも見せられぬ肉体的変化が袴の内で生じた。  無言で踵を巡らせた彼にフォンが面食らって声をあげる。 「ど、どした?」 「……シャワーを浴びて来る」  それもとびきり冷たい奴を。  ワカサマ、綺麗好きだなぁ。 フォンの呟きが聞こえるが、訂正する余裕もない。 「オレも行こうかな」  ついて来そうなフォンに、彼は鬼の形相になる。この状況で全裸の彼とシャワー室に収まって、何もしないで済ませる自信が、彼には、ない。 「……うむ。どうなってもいいならば、来い」  フォンが彼の迫力を明らかに誤解した。 「お、オレ、あんなに怒らせるような事したか?」  狼狽えて澤田を見上げたのだろう。 「すまんな。あぁ見えてウチの若様、純情で」  ……応える澤田の言葉に、彼はあわや刀を抜きかけた。 https://estar.jp/novels/24108425
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