ノリアキラ

【 闇恋指南 】1/4  腰を落とし、道場の畳を両の足の裏を埋めるように踏んで。 左足と鞘を後方へ鞘引き、抜刀。  するりと二本の銀光が同じ軌道に走る。 ぴたりと八相で留まり。  畳みの上一ミリを並行に滑らせるように前へ踏み込んで斬り降ろし。 身を引き上げ、しのぎに鞘の口を当て、右足をじりと引いて鞘送り、刀を収める。  鞘に刀が収まりゆく音、鯉口の鳴るタイミングも、袴に隠れる膝のたわみ、体の開きも、まったく彼と動きを一にしている。 「……良いな」  す、と、緊張を解いて、口に出していた。 感じた満足が口調に出ていたかもしれない。  フォンが唇の端を引き上げる。 「お。評価あがった」  嬉しそうだ。 もう結構動いているので、共に道着は汗まみれである。  その汗を拭いつ、彼に褒められて嬉しそうなフォンの顔を見るのは、彼も、嬉しい。 「もとより私のあなたへの評価は低くないが」 「嘘つけ。こないだまで鬼みたいな顔で、飛ぶな跳ねるな言ってたぞ」 「一か月でここまで来たのだ、筋が良いどころの騒ぎではない……まぁ、師が良いのだが」  自らの指で自らの顎を軽く押さえながら笑う彼に、 「けっ。しょってやがらぁ」  はすっぱな口調とは裏腹に、フォンがニッカリとあどけない笑みを零すから、彼はふと肩を揺らしてしまう。  目を細め、口を噤んで見下ろすと、フォンは急にばつ悪そうに、半笑みのまま彼から視線をゆっくりずらした。  フォンらしからぬ横顔が、昼間のあの直感を呼び起こさせる。  何か彼に話があるのに、まだ迷っている。 その、心の内が見えるようだ。    顎にあてていた指を彼はそっと自らの唇まで動かした。 フォンの言葉を聞かず済ますにはどうしたら良い?  修練場もこの時間は彼ら以外人は無く。 黙ってしまうと、沈黙だけが宵闇の冷気と共に、足元へ染み込むようだ。 「……フォン」  言いたい言葉なら、彼にもある。 澤田にもさんざ煽られた。 「シェイ・イウェイ・フォン」  改めて呼んで、自らの唇にあてていた手を伸ばし、その顔を自分へ向かせる。 「せっかくそれだけ動けるようになったのだ。少し手合わせしてみんか、私と。……ちょっとしたペナルティ付きで」   (むはは(笑)! 2/4へ!) https://estar.jp/novels/24108425
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