伊東いろはす

本当どこにでも、誰にでも
こちらの作品はホラーというジャンルですが、いわゆる心霊現象はなく、登場人物は紛れもなく全員人間です。でも、だからこそ怖いんです! 作品を読み進める上で私は、主人公の多香江やその夫の幸一、その他の友人や家族に至るまで「何なんだ、この人は……?」とほぼ全員に対して何らかのモヤモヤした感情を抱いていました。 特に多香江に対しては後半になるにつれ、自己都合ばかりを求めている上にその自覚もないという救いのなさを抱き、理解を示す気を削がれている自分がいました。 ……ですが! 恐ろしいのは、ややもすれば自分を含め誰しもが多香江のようになり得るということです。少なくとも私はそう感じました。 作者様が後書きで仰っていた“利己性”という誰にでもあるものがその正体だったのかもしれません。 この物語を読まれた方は、多香江と幸一の顛末に「恐ろしい、あり得ない」と思った後で、「でも、私は本当に大丈夫……?」と自分に対する疑念も湧き、二度震えることになるのではないでしょうか。 拙い感想になってしまいましたが、テンポと読み応えとホラーとして読後に残る印象がバランスよく充実した作品です。 また毎度のことながら、作者様の文章力や表現力にはただただ脱帽するばかりでした。 「悪意」のシリーズとして3部構成の第1弾ということだったこちらの作品。完全に引き込まれました! シリーズの他の作品も非常に期待しております✨
2件

この投稿に対するコメントはありません