小池正浩

脱却せよ、フェティシズムの依存から
"The Incel Rebellion has already begun! We will overthrow all the Chads and Stacys! All hail the Supreme Gentleman Elliot Rodger!" (インセルの暴動はすでに開始した!  すべてのチャドとステイシーどもを  オレたちがぶちのめしてやるんだ!  英雄エリオット・ロジャー万歳!)  インセル(incel)とは、不本意(involuntary)に禁欲(celibate)する者の混成的な略語、つまり要約すれば、みずからは望まない独身の「非モテ」「弱者男性」のことを指す。チャド(Chad)はいわゆる世間的にモテる男性の、ステイシー(Stacy)とは同様にモテる女性ないしはチャドみたいな男性とばかり交際する女性の、それぞれインセルのコミュニティ内における俗称であり蔑称。エリオット・ロジャー(Elliot Rodger)は、2014年5月23日、アメリカのカリフォルニア州アイラヴィスタで銃乱射事件を起こした殺人犯の名前で、いまでは一部のインセルから称賛され手本とまでされるいわばダークヒーロー的存在。呼応するように2018年4月23日、カナダのトロントで自動車の暴走殺傷事件を起こした犯人は、その直前SNSに上記のような犯行声明めいた宣言を投稿していた。  ポップな、このシンプルに短くたくみに戯画化された物語は、とてもリアルで過激な要素と表現とを多くふくみながらも、あくまでも純粋なエンターテインメント以外の何物でもない。ちょくせつにはおそらくコロンバイン高校やヴァージニア工科大学で起きた銃乱射事件を参考に、うまく合成し応用して創作したとおもわれる。がゆえに、べつの前述した自滅的な大量殺戮テロともリンクする。がしかし、だとしても本作は一種のファンタジー=幻想でしかない。このような妄想は現実には起こらない。起きてはいない。妄想はあくまでも妄想=ファンタジーでしか。  善かれ悪しかれ私たちは、現実を模した幻想に没入して、ただひたすらエンターテインメントの妄想を享楽すればいいのだ。安心して安全なポジションに身をおき、テーマパークやアミューズメントパークでアトラクションを体験するように。ネットや映像をとおしてニュースを目にするように。皮肉にも、他人事として。
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相変わらず作品以上に深い考察の素晴らしいレビューありがとうございます。 小池さんの感想は私をいつもとてもイイ気にさせてくれます。 小池さんの感想を読むと、そんなに素晴らしいもん書いたっけ?と自作を読み直してしまうほどです アメリカでのスクールカーストのステレオ観は強烈だし、人間内面だなんて言葉が日本よりもずっときれいごとでしかないんだなって思います。 それはつまり白人文化と同義で、そういうマッチョな選民思考というのは覆えすのは難しいんでしょうね。 覆したかったら、ある意味こうするしかないっていう。 おっしゃる通りエンターテイメントですね。だってこういう事は良くないよ、不公平な社会に一石を投
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