しのき美緒

繊細な描写が光る心温まるドラマ
とにかく描写が繊細で、作者の脳内にはしっかりとこの廃工場とその周辺の工場群が組み立てられ、そこで登場人物たちを自在に操っている。 例えば「周囲の工場の音で」さらりと書かれているこの一言で、読者はここが小規模な工場地帯であることが想像できる。1ページの三段落では、稔の廃工場では大きな機械がなくなって、据え付けられていた台と古い機械が残っていること、それにうっすら積もるホコリが光に照らされて舞い上がる様子までが見える。恐るべきリアリティ。隆行は一体何をしにきたのか。古くて置き去りにされた機械と、孫を理解できない年寄りの姿がリンクする。が、不思議なもので、孤独をかこっているのは孫のサツキであり、不登校の彼女に対して、隆行には竹馬の友がいて、社会生活を楽しんでいる。このあたりの設定も抜群にうまい。見習いたい。教えてください。 サツキの不登校の元となったサバゲーが、祖父と孫を結びつけるツールとなる設定もとても気がきいている。ここをもう少し考えてみる。 作者は本人にとっては大問題だけれど、世の中にはいくらでも転がっていそうな日常を描きながら、人間のもつ多面性にフォーカスする。先述のとおり、年寄りだけど、若いけど、真面目そうだけど、ばあさんといっていい年齢だけど、と最低限の字数で家族の内面に光をあてていく。 隆行は「らしさ」「~べき」という強要をやめ、孫を理解するために自分もサバゲーに挑戦する。 本作は、役割(ペルソナ)の下に隠れる多面性を理解することの大切さという主題(わたしにはそう思えた)を、押し付けることなくさらりと描いた大名作だ。素晴らしい作品をありがとうございました。
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しのきさん、感想ありがとうございます! すごい……もう私より作品のことをわかってくださっているのでは、と思うくらい分析してくださってありがとうございます! ヒューマンドラマは、短編映画とかN〇Kのドラマみたいな「実際にありそうな感じ」をイメージして執筆していて、私が思い浮かんだ情景がなるべく読者様にも伝わればいいな、と思って書いていまして、それがしのき様の感想で「ああ、伝わっていたんだ」と思ってホッとしました。 また、書いている時は夢中で、「なんとなくこっちがよさそう」と思いながら言葉をチョイスしたり、登場人物の動きを考えているので、それを論理的に「こんな効果があった」とわかりやすく教えてい
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