夏月 海桜

待望・渇望・イチゴ白書を読まれた方がこの作品を読むと、最初は戸惑う事だと思う。 しかし。この作品無くして、悠一が何故女性達を近づけないか。伸一の悠一に対する想いとは。勇也とどのように友情を深めていくのか。それが解るわけが無い。 待望の時点で、悠一に暗い過去がある事は解っている。少し触れられている時点で、そんなことが……。と主役の悠一にかけてやれる言葉が見つからなかった。 というのも、私は、わりと、心の中で自分も端役で作品の中にいるつもりになっている事が多いからだ。 だが、その過去話をきちんと1つの物語に昇華させた本作品を読んだ時、読者は、悲しい・切ない感情があっても、その感情だけに囚われないでいられる。 必死にもがき続けているだろう悠一。しかし、自分と同じ悲しみを背負った弟の存在が、元々強い彼の精神を強くさせ、勇也という唯一無二の友人が出来た時、少しずつ癒されている事も理解してきたはずだ。 それを……悠一の変化を弟の伸一も肌で感じ取ったからこそ、自然と伸一は勇也に対して、ああいうセリフを言ったはず。 失ったものは大きい。 しかし、その悲しみだけに囚われずに前へ進もうとする悠一と伸一兄弟と、一番近くにいながら、敢えて普段通りの勇也の葛藤と心情を描いた本作品は、このシリーズに無くてはならない、1作品だろう。 この作品無くして、シリーズは語れない。
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