第 壱 章

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          文久3年 師走――         辺りを暗闇が覆う子の刻。 (午前0時頃)     しかし今日は満月。 月の光が辺りを照らし、普段より明るい。           そんな中、静寂につつまれているはずの人気のない裏路地に、複数の駆ける足音が響く。           「何処に行った?!」   「奴は手負いだ。  そんなに遠くに行ってないはず…。」         月の光によって浅葱色のダンダラ模様の羽織りを着た男二人が照らしだされる。           「くそっ。さっき仕留めていれば!」       背が高く体格も大きい短髪の男が悔しそうに声を荒げる。     新撰組十番隊 組長、原田左之助。         「まぁまぁ落ち着け左之。仕方がないさ。  今日は一先ず屯所に戻ろう。」         そう言ったのは原田とは逆に、落ち着いている少し小柄の男。     新撰組二番隊 組長、永倉新八。         「新八っつぁんは気楽すぎじゃね?!」   「そんなことないさ。  とにかく!今日はもう帰るぞ。」         永倉はすでに諦めており、すたすたと来た道を引き返す。 このまま屯所に帰るのが不満の原田もぶつぶつ言いながら永倉の後を追った。          
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