赤色の鉛筆

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『 刀 』   暗闇で微かに人の動く気配を頼りに、ゆっくりと正眼に構えた。 この相棒はは千年も生きたという化け物。 何人の血を吸ったのか、研いだだけでは落ちない褐色が平地にはこびり付き、煌くことはない。   それでも斬れると信じられるのは、長年一緒に戦地を駆け抜けた信頼なのだろう。 まるで切っ先まで己の神経が通っているような、気さえする。   空気が動く。 相手の刃が闇に煌く。 その刃に誘われるよう、一気に突き出し弾いたところを、袈裟に斬り下ろした。   嫌なくぐもった叫びと同時に、噴出す血飛沫を全身に浴びる。 たぎった己の血の熱さと、生ぬるい相手の血が混ざるような錯覚を感じた。   相手が崩れ落ち、異様な静寂が広がる。 聞こえるのは自分の鼓動と息を吐く音だけ……   急激に沸き起こる恐怖と、疲れに襲われながら刃を鞘に納めようとした。 しかし、その納めるべき物がない。   思わず躯を見つめ、笑いがこみ上げてきた。 律儀にもこの化け物の相棒は、最後まで役目を果たしたというわけだ。   手元に残された柄を元結で鞘に括り、無理やり納めるとゆっくりと歩き出した。   残された躯に刺さったままの切っ先が、墓標のようにも見えた。
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