five

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包帯を取った腕。 生々しい傷が残るそれを見て、言葉をなくすのも無理ないだろう。 「矢崎…それ…」 「水橋、お前コイツが学園にいる間は目離すなよ」 ひとりきりになると、コイツはリスカをする。やめろと言ったところで聞かない。繰り返し繰り返し、その傷を上書きしていくのだ。 「ヒロトのバカ…」 「馬鹿はお前だろ」 諦めたのか、捕まれていない方の腕を目の上に乗せて表情を隠すジンには悪いが、全然隠しきれていない。というか隠しているつもりなのか、それでも。 泣きそうに歪められた表情が丸見えだ。 「消毒くらいしろって言ってんだろ…」 思わず舌打ち。 切り刻まれたまま放っておかれた傷は化膿しはじめている。包帯のほうにも、体液に混じった血が付着していた。 「も、やだ…」 「なにが」 「寂しい…」 「…………」 と、言われても。 「帰ってきてよ…寂しいよ、ヒロト」 「………」 戻ることができないということ、こいつも分かっていないわけではないだろうに。 「俺も、寂しいよ」 「っ、だったら…!!」 「だから探しているんだ」 「………」 言葉を遮り続けた言葉。 それは衝撃だったらしく、ジンはまた言葉をうしなった。 まったくこいつは、俺のことを分かっているようで、全然分かっていない。いや分かってはいるのか。ただ、我儘のようなジンの思いがそれを否定しているだけなのか。 「見つかったら…帰ってくる?」 「さぁな」 「…いじわる」 「分かんねぇよ、そんなの。戻れるのかどうかなんて、あいつの状況次第だ」 「……切り捨てるっていうのは」 「ない。切り捨てるならそっち」 「それは嫌」 だろうよ。 クッと笑うと、泣きそうな顔が俺を煽り見た。 口を開き、言葉が紡ぎ出されようとしたその時、別の声がそれを遮る。 「…なぁ、話についてけないんだけど」 「KYかお前」 「KYという言葉を大介が知ってたことに俺は驚きだよ」 「流行語だろ」 「それはなんか違う…」 どっちもKYでいいだろ、もう。 変なやり取りを目の前に、笑いを堪えるのに必死な俺に対してジンはしらけた目をしている。 シリアスな空気は一気に吹っ飛んだ。 KYだったのか、AKYだったのか、こいつらのことはよく分からないけど。 「っし、消毒も終わったし、ご飯にしよーぜ」 話がそれたのは好都合だった。 きっとジンを相手にこの話題だと、収拾がつかなくなるんだと思う。俺の思いとジンの思いは平行線をずっと保っていて、きっとこれから先も交わることは、ない。
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