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そこに映っているのはナナが裏の校庭で、ある男子生徒の胸に抱かれている姿だった。明らかに、ナナは受け身である。
二人は頬を赤らめ、互いの気持ちを打ち明け合っているようだった。が、それを二階校舎の窓から見下ろす一人の女子生徒の姿が映った時、こちら側のナナは瞳を伏せた。
「なんでこんなの見せんのよ。奈穂がアタシ達の事を見てたのは知ってるよ! この事がきっかけでアタシ……奈穂とまともに顔合わせられなくて、ずっと避けてた」
震える篭った声で自己嫌悪に陥るナナに、真は飄々と言葉を返した。
「なるほど。で、互いに言葉を交わさないままだったんですね?」
「そりゃそうでしょ。絶対無理。中学の頃からずっとアタシと一緒にいてくれた唯一の親友を、こんな形で裏切ったんだもん。でも結局、彼とは長く続かなかった」
ナナの零す涙は頬へ落ちる前に彼女の手で拭われる。相変わらず窓の外では黒い影が彼女の姿を捕らえて離れない。
「アタシ、馬鹿だよね」
「ナナ様。よく見て下さい。あなたの親友は、そんな表情してませんよ?」
「――え?」
真に言われて、ナナは虚をつかれたように鏡に視線を移した。
鏡面に映る奈穂の瞳は一瞬見開き、逃げるようにその場を離れた。
見上げたナナの視線から身を隠し、廊下の壁に背中を預けた時の表情は、まるで何かから開放されたような安堵の息と共に目元を綻ばせているのが分かる。
「え……? 奈穂、笑ってる?」
その微笑みは、柔らかくて優しい。
当然抱くであろう黒い心の色が微塵も見当たらなかった。それどころか、奈穂は微笑みを満面に浮かべている。
「これ、どういう事?」
「まあ見ていて下さい。これが真実ですよ」
得意げに指し示す鏡面に、奈穂を中心にして映像が映し出された。
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