398人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
重くなった空気を払い退けるように真は窓から遠い方、つまりシャンプー台に近い席に案内した。
「お疲れ様でした。続けて施術させて頂きますので気を楽にしていて下さい」
そう言って、真は窓をちらりと見た後、再び鏡に映るナナに視線を戻した。
「ナナ様。当店自慢の鏡をご覧下さい。この鏡には“真実”が映し出されます。あの黒い影、本当にその親友の奈穂さんであるかどうかが分かりますよ」
ナナの肩にそっと手を置いて言った真の言葉に彼女は吹き出した。
「おっかしいんじゃないの? んな事言って機嫌を取る人もいないわよ。アンタ本当に変な人ね」
“変な人”と言われながらも真は“天使”である事に変わりは無い。彼はナナの肩に乗せた手から白い光を彷彿させ、その力と連動するように容易く鏡面に変化を与えた。
風香はその様子を横目に前処理と二液塗布に準ずる。
(触らぬ霊に祟り無し、よね。でもやっぱりちょっと興味あるなぁ。じっくり見てみたい気もするし……)
おそらく諺(ことわざ)は間違っているが、彼女の好奇心は仕事の手を早めた。
「ちょっ! 何これっ?」
「はい。ナナ様の過去を映し出しております。ほう、これは高校生の時ですね? しかも、派手さは今とあまり変わってないですね」
瞬発でぐるりと真に振り向き鋭く睨む。何も言葉が出ないのは図星だと本人が一番分かっているからだろうが、鬼のように睨まれる真には痛い視線だった。
「す、すみません。失言でした……」
決して目は合わさず、頬を引き攣らせながら謝罪する真は慌てて話題を変える。
「あっ、これが決定的瞬間ですね?」
「アンタいちいち軽いわよ?」
目をすがめて鏡面を見るナナにとって、そこに映る映像はあまりに悲痛な出来事だった。
最初のコメントを投稿しよう!