†偽りの裏†

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 俯きながら微笑む奈穂の頬は色艶よく、さらりと落ちる長い絹糸の茶色の髪が窓から差し込む光に輝く。  鏡面の映像は変わる。放課後だろうか。後ろの席から立つ奈穂が、笑顔でナナの元へ駆け寄ろうとするも、声を掛ける間もなく背を向けて去っていく。  待ってナナ、と声を出すけれど逃げるように彼女は走って行ってしまう。ナナのそんな姿を悲しそうに見送る奈穂。  次に映るのは奈穂が何度も話し掛けようとするのに目も合わせず去っていくナナの姿に涙を浮かべる、という場面が時と場所は違えど幾つも繰り出される。  奈穂はナナに対して好意を持って近付こうとしているだけなのに……。 だがその想いは伝わらないまま、卒業式を迎えた。最後まで言葉も目も交わす事なく、二人は離れ離れになってしまった。  そして再び鏡面が映し出したものは、おそらく卒業式が行われた学校のトイレ。  奈穂はトイレの鏡に向かって、あたかもナナと向かい合ってるかのように自らに語りかける。 『ナナ。あんたはどーせ私が怒ってると思ってんでしょ? だけどさ、目ぐらい合わせてよ! 私は彼の浮気相手が、私がフラれた相手があんたで良かったってマジで思ったんだよ? あんたなら、全然許せるし! つかもうどうせウチラの恋愛関係終わってたし! なんでそんなに自分を責めてんだよっ! 携帯もメールも拒否っちまってようっ! 私は、私はあんたでいいんだってばあっ!!』  いつの間にか泣きじゃくりながら自分が映る鏡に何度もカバンを叩きつける。誰もいないトイレで、奈穂の叫びだけが虚しく響いていた。  そこでプツリと鏡面の映像が消え、涙に溢れるナナの姿が重なるように映る。 「ナナ様。これが、あなたが今まで自分を恨んでると思っていた親友の本心ですよ?」 「……う、嘘。奈穂……奈穂? ねえ! 奈穂をもう一度出してよっ! ねえっもう一度出してっ! 出してってばーっ!! アタシの声、アタシの……気持ち、届けてよう――っ!!」  鏡面に縋りつき、哀れな程に崩れるナナは過去の残像を激しく求めた。  
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