それから僕等は。

3/31
451人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
玄関まで裕を送ると、俺は彼の靴を履く後ろ姿をじっと見つめる。 何だか名残惜しくなり引き止めてしまおうかと思ったが、ぐっと押し黙る。 「──お邪魔しました。航、また後でメールするな?」 二人以外誰もいないのに、裕はちゃんと挨拶をして引き戸に手を掛けた。 ガラリと戸を開ければ、外から夕方なのにも関わらず夏特有の熱気と、ジリジリと鳴く蝉の声が伝わってくる。 外は、まだ暑いんだろうな。 最近あまり外に出ていなかったから、あの暑さを忘れていた。 「ん、了解。期待しないで待ってる」 「そこは期待して待っててよ」 「お前帰ったらすぐ寝そうだもん。ほら、明日部活あるんだからさっさと帰れ」 「航君冷たいー」 ──じゃあ、またな。 クスクスと笑いながら、ひらひら。 俺に向かって振られる手。 いつものやり取りの筈で、いつもの仕草の筈なのに、何故か寂しさを感じて悲しくなって。 裕がオレンジ色の光に包まれていった時、 「───裕…っ」 ふと気が付けば、思わず引き止めていた。 引き止めるつもりは更々なくて、なのにしっかりと服の裾を掴んでいるのだから不思議。 咄嗟に出た声と手に、自分でも驚いた。 裕は、丸くした目で後ろにいる俺をじっと見る。 「航?」 あどけなさが残る、あの表情で。 自分の顔に、じわじわと熱が集まるのを感じた。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!