理想ノ子供

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数分後。 アルミ板が外される音がして、穴から顔を覗かせてみた。 すぐ真下に、椅子からおりた篠田がこちらを見上げて立っている。 どうやっておりようか、思案していると、 「おいで」 そういって、彼は両手を広げた。 まさか篠田の胸に飛び込むはずもなく、あたしは足から慎重におりる事にした。 途中で腕の力がもたず、どさっと尻から落ちる。 「いっ……!」 息が詰まるような痛み。 痛い、と口に出そうだったが、我慢した。 うずくまったまま痛みを堪えるあたしの隣に、篠田がしゃがみ込む。 「相変わらず甘え下手だね。明衣ちゃんって」 そういう問題じゃない。 あたしはなんとか立ち上がり、ベットに腰掛けた。 体中埃やゴミだらけだが、構っていられない。 前来た時は暗くてよくわからなかったが、ここは独房のような部屋の造りをしていた。 篠田は白いシャツに白いズボンをはいていて、一見パジャマのような服装をしている。 しかも足元は裸足だ。 ずっと監禁されていたのかと思うと、様々な感情が入り混じり、涙が出そうになった。 「……何故ここに?」 ごまかすために、俯いたまま尋ねる。 篠田はあたしの隣に腰掛け、答えた。 「ちょっとミスして、ね」 「ここに入ったのがばれたんですか?」 「まぁ、そんなとこかな。 明衣ちゃんが俺を探しに来たって事は…… なにかあった?」 あたしは篠田に、彼がいなくなってから起こった事をひとつひとつ話した。 和真が【レッド】として戻ってきた事。 廣瀬葵という少女が【レッド】として現れた事。 和真の変貌や、草汰との審査の事。 そのため、和真が草汰に強い敵意を抱いている事。 篠田は黙って聞いていた。 「お願いします! 研究所の事、教えて下さい! 黒木がなにをしているか、子供達がなにをされているのかっ」 顔を上げ、篠田の目を見て言った。 あたしの想いが彼に伝わるように。 篠田は眉間にシワを寄せる。 思い悩むような、そんな顔をしていた。 時が止まったかのような沈黙。 篠田は険しい表情であたしを見た。 「……知ってどうする?」 「全力で止めます。 あたしの全てと引き換えにしても」 母の顔と兄の顔が浮かぶ。 感傷に流されぬよう、自分の膝に爪をたてた。
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