捧げる祈りに癒しの光を

93/110
351人が本棚に入れています
本棚に追加
/848ページ
 彼の脇で、シェリーがきゅっと唇を真一文字に結んで俯いていた。僅かながら震えるそれは何か言いたげではあったが、敢えて耐えているようだった。そんな彼女にちらちらと目線を送る男は、意外にも少し表情を曇らせていたが同じく何も言おうとはしない。  しばらく惑っていた男だったが、やがてズボンの両ポケットに手を突っ込み、唾と共にこう吐き捨てる。 「……けっ。ギルドなんかどうせ信頼出来ねえんだろうけどな」  先刻よりも大袈裟な口調。まるで悪い自分を演出したいかのような言い方に、バートだけでなく女も不思議そうな顔をする。シェリーだけは相変わらず俯いていたが。  男は不機嫌そうにきびすを返し、人だかりの真ん中を両腕で無理やり押しのけながら引き返していった。押された者は多少よろけた後、バート達と男を交互に眺めながらも男の後を追っていく。  彼らの背を見送った女は、自分も後ろを振り向き、取り巻き達だけに解散するよう告げる。戸惑いながらも拡散する人混みの中、女は再びバートとシェリーを向いた。 「……ごめんなさいね、あんな言い方して。私はあんた達を信じるよ。ただ、あいつの前で機嫌直すのが嫌だっただけだから」
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!