つまらない日常

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「いつもの茜なら、私の胸に飛び込んで来てくれるはずだ……貴様、偽者か?」 「飛び込んだことない!」 私は、いつからこの二人にいじられるようになったのだろうか。入学した時はこんなじゃなかった様な……。二人いわく、私はからかいがいがあるのだとか。まあ、別に嫌ではないけど。 ――そうこうしている間に集合時間になったらしい。 「全高校二年生、注目!」 赤いハンドスピーカーを手に、担任の中川が怒鳴っている。生活指導部の主任でもある彼の怒声で、校庭は一瞬にして静まった。 私は綾香と奈々の元に静かに駆け寄り、中川の話しに耳を傾ける。 「直前で行き先変更があった。大変申し訳ない。しかし、今日は皆が待ちに待った修学旅行だ!」 ハンドスピーカーは時折ハウリングしつつ、中川の大きな声を更に大きくする。朝っぱらからそんな大きな声で、近隣の方には申し訳ない。 「校長先生は、今日はいらっしゃらない」 この一言が、全高二生をざわつかせる。水面を走る波紋のように、騒ぎは瞬く間に広がっていく。 「辞職しろ!」 「説明責任があるだろ!」 昼間の国会中継の一幕の様な野次が飛び交う。違うところと言えば、居眠りをしている人間がいないところだろうか。 「……おのれ校長め」 私は呟きながら、心の中で校長に対する確かな敵意が形成されるのを感じていた。
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