ヌリカベの牙

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   ヌリカベは、森で生きていた。誰にも、気付かれなかった。    雨が降る。雨雲はどこまでも空を覆い、太陽の輝きを遮断していた。  日中だというのに、森に光はない。ヌリカベは暗闇の中で佇んでいた。  体に雨は当たらない。すり抜ける。目の前を通る雨脚に手を出しても、雨はヌリカベに当たらなかった。  ヌリカベは、つぶらな瞳をそっと閉じる。  ヌリカベは、短い手足を曲げて横になる。  ヌリカベの傍を、トカゲが歩いた。  トカゲは何食わぬ顔で、歩き続ける。そして、通り過ぎていった。  ヌリカベは、口を持たない。  意思を発せず、何も食さない存在。それがヌリカベだった。  その日、雨は止まなかった。
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