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「俺だって別に自信あるから衣野に話せた訳じゃない。彩芽も衣野も両方失うのが怖かっただけ」
そう言って瓶が空になるまでビールを飲み干し、バーテンダーにお代りの合図をした。
「俺っていう前例の話を聞いてたから?言わないと両方失うかもって思ったのって」
「それはある。ただ、その前例がプレッシャーになってるとこも正直言ってあった」
「はは、そっか。俺に感謝しろって言いたいとこだけど、プレッシャー掛けてたんなら何も言えねえ」
久藤が苦笑した時、お代りの瓶ビールをバーテンダーから貰って直ぐにごくごく飲んだ。
ジュークボックスから流れる古い洋楽の音色が独特な空気感に拍車を掛け、酔いも回って来ているせいかドラマのワンシーンの中にいる錯覚に半分陥っている。
「うちの妹が婚約したってさっき話したろ」
この雰囲気に更に酔っているのか、久藤にとっては唐突であろう話題を何故かぽろっと出していた。
「ああ、さおりちゃんだろ?慎吾ん家で何回か会ってる。おめでとうって伝えといてくれよ」
「妹の婚約者、俺と田辺の後輩なんだよ」
「ん?蔵馬も知ってるよ。俺も西海高だし」
「俺そいつと小学校からの付き合いで、家にもよく来てたからうちの家族とも付き合いあって」
本格的に酔いが回ったのか、話を合わせてくれている久藤の返しを一つ一つ聞くよりも自分が話したい事を話し続ける俺。
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