光彩 -前編-

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「他って?彩芽から?衣野から?」 「彩芽からも慎吾からもだけど、本宮からも田辺からも」 久藤から返って来た名前を聞き、俺はカウンターに突っ伏しながら悶絶した。 共通の知人から話が漏れるのは当然で致し方ない事なのは重々承知していても、こんなのは俺にとってみれば四面楚歌みたいなものだ。 「慎吾はまあ、あの通りシスコンだからちょっと愚痴っぽく言って来たし」 「愚痴……。どんな」 「色々だけど、『母さんと親父にゴマすりして取り入ってた』とか『彩芽にデレてる小木原見ると蕁麻疹出そうになる』とか」 愚痴を通り越して悪口じゃないか。 「でもさっき慎吾に褒められてたじゃん。彩芽の彼氏が小木原で良かったって。酔っ払ってる時こそ本音出るし、結局はそれが慎吾の一番大っきい感情なんだろ」 そう言ってカチッと煙草に火を点ける音が左耳に響き、俺は両腕の上で伏せていた顔をゆっくり上げてビールを飲んだ。 「本宮には嫌味言われたなー。お前は顔だけの薄っぺらで自分に自信無いから衣野に言い出せなかったんだ。小木原は彩芽ちゃんを幸せにする自信があるから衣野に言えたし許されたって。まあ反論の余地は無かったね」 久藤が若かりし頃の自分を嘲笑して煙草を蒸すが、本宮が言ったというその言葉はただの嫌味だとしてもちょっと酷じゃないかと思う。 「久藤は当時高一だったんだろ。その年齢で自分に自信持てる男なんてどれぐらいいるんだよ。大学一年の秋にやっと衣野に言った俺より三年も若いのに」 しかも衣野とは小学校低学年からの仲で、親交年数の長さも付き合い方も俺と久藤は違うから比較しちゃいけない。
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