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「いやぁぁああ!」
十六夜がそう叫び身を屈めたその時、鈍い音がその場に響いた。
「……?」
しかし、鈍い音がしたものの十六夜は何処も痛まない事に気づき顔を上げる。するとそこには、
「っ……貴方っ……!」
そこには、十六夜を庇うようにして立っている朝吉がいた。
吉郎は振り下げた筒と朝吉を交互に見る。筒には朝吉のものであろう血が付き、朝吉は筒を頭で受けたのだろう、額の左側の皮膚が斜めにぱっくりと裂けていた。
「十六夜さんは、俺が守るんだっ……!」
流れる血を気にも止めず朝吉はそう叫ぶと、吉郎の胸ぐらを掴んだ。
「ひっ……!」
――からん。
吉郎の手から筒が地面に滑り落ちる。
「テメーみたいな奴に……十六夜さんを任せられるかっっ!」
朝吉は右手を握りしめると殴る体制に入った。しかし……
「駄目っやめてくださいっ……!」
先ほどまで地面にしゃがんでいた十六夜がその腕にしがみついたのだ。
「十六夜、さん……」
「お願い……やめて……」
十六夜の震える声に朝吉はゆっくりと全身の力を抜く。
その拍子に吉郎は地面に尻餅を付き腰を抜かしていた。
「十六夜、さん……俺……」
「……?」
十六夜は、しがみついていた朝吉の腕がゆっくりと下に落ちていく事に気がつき顔を上げる。
すると朝吉は一気に膝を折りその場に倒れ込んでしまった。
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